ピコ秒超高強度レーザーにより見えてきた高エネルギー密度プラズマの多階層的特性

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タイトル別名
  • Multiscale Properties of High Energy Density Plasmas Created by Picosecond Relativistic Lasers
  • ピコビョウ チョウコウキョウド レーザー ニ ヨリ ミエテ キタ コウエネルギー ミツド プラズマ ノ タカイソウテキ トクセイ

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抄録

<p>レーザーの高強度化・短パルス化技術の進展により,ピーク出力がペタワット級の大出力の光を生成することが可能となってきた.集光強度は1018 W/cm2を超え,レーザー場中の電子は“レーザー周期”数フェムト(10-15)秒の間に相対論的エネルギーに加速される.相対論的強度とよばれるこのような集光強度をもつレーザー光は,1億気圧(0.1 Gbar,10 TPa)を超えるエネルギー密度,すなわち圧力をもつ.これは,現在地上で実現できる最大の圧力である.</p><p>高強度のレーザー光を固体やガスに照射することで,光の圧力と同等のエネルギー密度をもつプラズマを作り出すことができる.生成されるプラズマは,低密度の相対論的プラズマから低温・高密度の縮退プラズマまで幅広いパラメーター領域におよぶ.実験室にこのような物質状態を作り出すことで,宇宙における粒子加速や無衝突衝撃波形成,高エネルギー密度状態での熱伝導やオパシティなどの基礎物性等,様々な研究を行うことができる.また,生成されるプラズマを利用した高輝度X線・ガンマ線源,高エネルギー粒子加速器,制御核融合などの応用研究も展開されている.</p><p>相対論的強度レベルの超高強度をもつ超高強度レーザーを実現するためには,強いパルス圧縮が必要であり,照射時間は10–100フェムト秒と短くなる.このような短時間では,高エネルギーに加速されたプラズマ中の電子は無衝突とみなすことができ,現象は電子の運動論的(粒子的)振る舞いに支配される.短時間のレーザー照射により強い非平衡状態が駆動され,照射終了後に緩和過程が進行する.</p><p>近年,レーザー装置の大エネルギー化にともない,相対論的強度をもちながらパルス長がピコ秒を超えるレーザー(ピコ秒超高強度レーザー)が開発され,運用が始まっている.スポット径も従来の超高強度レーザーより10倍程度大きく,形成される大体積の高エネルギー密度プラズマは広い応用展開のプラットフォームとなり得る.相互作用がピコ秒に及ぶと,高エネルギー粒子の運動に対して衝突緩和過程やイオンを含めたプラズマ全体の運動が重要な影響を及ぼすようになる.無衝突近似が破れ,イオンの集団的運動が出現し始める一方,流体近似を適用することはできない.この多層的な複雑性のためにシミュレーションも難しく,現象の理解が容易ではない.</p><p>著者は,この新領域において,光のエネルギーがどのようにプラズマ内部に輸送されていくのか,その結果としてどのようなプラズマや電磁場の構造が形成され,粒子が加速されていくのか,に興味をもって研究を行っている.最近の研究では,レーザー光によりプラズマが継続的に加熱されることによって,プラズマ表面の圧力が光の圧力を上回り,レーザー光を押し戻し始めることが明らかになった.その後も光の照射が継続すると,プラズマから大量の電子が強いレーザー電磁場中に噴出して,高エネルギーに加速され始める.これらの電子がプラズマ内部にエネルギーを輸送することにより,プラズマの構造が新しい定常状態へと遷移し,高効率のイオン加速も発現する.また,高密度プラズマ内部ではkeV温度の熱波が駆動され,10 Gbarを超える高エネルギー密度領域が形成される.</p><p>エネルギーが注入され続けるこのような超高強度光のエネルギーが注入され続ける開放系で,多階層にわたる現象が強く関連しながら進展していく点が,この領域のレーザープラズマ相互作用の魅力である.形成される高エネルギー密度プラズマの特性を理解することで,恒星内部での物質状態や輻射特性の解明等への貢献が期待される.また,従来の理論を超える高効率粒子加速やプラズマ加熱の実現,それを用いた制御核融合や新しい光量子源といった応用研究の発展が期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 75 (12), 746-750, 2020-12-05

    一般社団法人 日本物理学会

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