ラットにおける視床下部・下垂体・甲状腺系の周生期発達に関する実験的研究

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著者

    • 白井, 明志 シライ, ミツユキ

書誌事項

タイトル

ラットにおける視床下部・下垂体・甲状腺系の周生期発達に関する実験的研究

著者名

白井, 明志

著者別名

シライ, ミツユキ

学位授与大学

麻布獣医科大学

取得学位

獣医学博士

学位授与番号

甲第53号

学位授与年月日

1989-03-20

注記・抄録

博士論文

成体において,甲状腺ホルモンの分泌調節は,視床下部-下垂体-甲状腺系のネガティブフィードバック機構によって行われていることは広く知られている。 しかし,発育途上の胎仔において,この視床下部-下垂体-甲状腺系の機能がある時期に突然完成するのではないであろう。これまでにラットを用いて,胎仔あるいは新生仔の視床下部,下垂体および甲状腺の相互関係について,視床下部除去,下垂体除去,あるいは抗甲状腺剤の使用といった方法によって数多くの研究がなされており,いずれも,胎生末期において胎仔下垂体は甲状腺を支配しているが,この下垂体-甲状腺系に対して視床下部は胎生期のみならず出生後しばらくの間は支配関係にはないという見解を示している(Jost and Geloso, 1967:Štrbák and Greer, 1979)。しかし,これらの報告には甲状腺そのものの微細構造の変化をとらえたものはないので,電子顕微鏡を用いて,種々の処置後の濾胞上皮細胞の微細構造の変化を観察し,視床下部,下垂体および甲状腺の相互関係を実験形態学的に解明するのは非常に興味深いことであると思われる。 一方では,視床下部が下垂体-甲状腺系を支配していない時期においてもすでに,ラット胎仔の視床下部にTRHの存在が認められている(Barnea et al., 1977)。また,胎仔および新生仔の下垂体は外来的なTRHに反応してTSHを放出することができるという(D'Angelo and Wall, 1972 : Oliver et al., 1981)。この外来的にTRHを投与した時,甲状腺はどのような形態学的な変化を示すのかについても非常に興味が持たれるところである。 以上のことから,本研究はWistar系ラットを用い次の事項を明らかにすることを目的とした。 1)周生期の甲状腺は,どのような発達過程を示すのか。 2)胎仔の下垂体除去あるいは視床下部除去を行った場合,胎仔甲状腺はどのような微細構造の変化を示すのか。 3)2)の状態で抗甲状腺剤を作用させた場合,胎仔甲状腺はどのような微細構造の変化を示すのか。 4)新生仔において,甲状腺ホルモン分泌調節のネガティブフィーバック機構は作動しているのか。 5)外来的にTRHを投与した場合,下垂体はTSHを放出するのか,また,その時,甲状腺はどのような変化を示すのか。 第1章 ラット甲状腺の周生期発達 胎齢16日の甲状腺は,不規則な細胞塊と放射状配列をした細胞塊から構成されていた。間質には,毛細血管が存在していた。電子顕微鏡によって,放射状配列をした細胞塊の中心部に微絨毛が観察され,濾胞の形成が始まっていることが観察された。濾胞上皮細胞にはミトコンドリア,ゴルジ装置および粗面小胞体の細胞内小器官が認められたが発達の悪いものであった。胎齢17日になると,放射状配列をした細胞塊の中心にコロイドの蓄積が認められ,初めて濾胞が観察された。胎齢18日以降胎齢21日まで胎齢を増すごとに濾胞の拡大と上皮高の増加が見られた。濾胞上皮細胞においては,粗面小胞体の発達が特徴的であった。出生後1日から3日まで濾胞上皮細胞の高さが低くなり,粗面小胞体も縮小した。5日以降再び濾胞の拡大など発達を続けた。 以上の観察結果から,濾胞の形成は,胎齢16日から17日にかけて行われること,出生後1日から3日までその発達を停滞させること,粗面小胞体が甲状腺の発達・分化の程度および機能的状態をよく反映していることが明らかとなった。 第2章 ラット胎仔の除脳および下垂体除去後の甲状腺濾胞上皮細胞の変化 妊娠16日~19日に子宮内胎仔の除脳(視床下部除去を意味する)あるいは下垂体除去を行い,2日後の甲状腺濾胞上皮細胞の微細構造の変化を調べた。胎齢18日の下垂体除去胎仔においては,対照胎仔と比べて甲状腺重量は減少し,濾胞上皮細胞の"核/細胞"面積比が増加し,"粗面小胞体/細胞質"面積比は減少し,濾胞上皮細胞の発達・分化の遅延が見られた。これらの所見は,すべての胎齢で認められた。また,胎齢20日と21日においては,濾胞上皮細胞は,偏平で細胞質に乏しく,微絨毛は短縮し,粗面小胞体は縮小し,機能的にも低下しているものが観察された。除脳胎仔においては,すべての胎齢において対照胎仔と比べて,甲状腺重量,"核/細胞"面積比および"粗面小胞体/細胞質"面積比のすべてにおいて有意的な差は認められず,形態学的にも濾胞上皮細胞はほぼ同様の形態を示した。以上の結果から,胎仔の下垂体-甲状腺系は,胎仔の視床下部による支配を受けていないことが示唆された。 第3章 母体プロピルチオウラシル投与後のラット除脳および下垂体除去胎仔の甲状腺の変化 ラットの妊娠19日に子宮内胎仔の除脳あるいは下垂体除去を行った後,19日と20日に抗甲状腺作用のあるプロピルチオウラシル(PTU)を母体に飲ませ,21日の胎仔の甲状腺の変化を調べた。PTUを投与した母体の無処置胎仔では,生理的食塩水を投与した母体の対照胎仔と比べて,甲状腺重量は増加し,濾胞上皮細胞の"核/細胞"面積比は減少し,"粗面小胞体/細胞質"面積比は増加した。濾胞腔は狭くなり,微絨毛は発達し,濾胞上皮細胞の細胞質中には再吸収コロイド滴やライソゾームが観察された。下垂体除去胎仔においては,甲状腺重量は減少し,濾胞上皮細胞は偏平となり,粗面小胞体は縮小した。以上の結果から,胎仔の下垂体-甲状腺系のネガティブフィードバック機構に対して,胎仔の視床下部は支配関係にはないことが示唆された。 第4章 プロピルチオウラシル投与後のラット胎仔および新生仔の甲状腺の変化 胎齢19日の胎仔と,出生後1日,3日,5日および8日の新生仔に抗甲状腺作用のあるプロピルチオウラシル(PTU)を投与し,2日後の甲状腺の変化を調べた。胎齢21日において,PTUを投与した胎仔は,対照胎仔と比べて,甲状腺重量が増加し,濾胞上皮細胞高が高くなり,コロイド蓄積量は減少し甲状腺腫が引き起こされた。濾胞上皮細胞には,再吸収コロイド滴やライソゾームが出現した。出生後3日および5日においてはPTUを投与した新生仔の甲状腺と対照仔の甲状腺には,その重量,形態に差異は認められなかった。出生後7日および10日においては,PTUを投与した新生仔は,甲状腺重量を体重比に換算した値が,対照仔と比べて大きくなった。濾胞上皮細胞の高さは高くなり,濾胞上皮細胞には再吸収コロイド滴やライソゾームが出現した。以上の結果から,周生期の甲状腺ホルモン分泌調節のネガティブフィードバック機構は,胎生期には確立しているが,出生後5日までは機能的に停滞し,5日以降7日までには再作動することが示唆された。 第5章 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)投与後のラット胎仔および新生仔の甲状腺の変化 胎齢19日の胎仔と出生後2日,4日,6日および9日の新生仔にTRHを投与して,その翌日の甲状腺の変化を調べた。胎齢20日において,TRHを投与した胎仔は,対照胎仔と比べて甲状腺重量は増加し,濾胞上皮細胞の高さは高くなった。濾胞上皮細胞にはライソゾームや再吸収コロイド滴が出現した。出生後においても,TRHを投与した新生仔は,胎齢20日の胎仔と同様,濾胞上皮細胞の高さは高くなり,濾胞上皮細胞にはライソゾームや再吸収コロイド滴が出現した。以上の結果から,胎生末期から出生後の新生仔期の間を通して,外来的にTRHを投与した場合,下垂体はTSHを放出できることが示唆された。 以上,本実験の結果から次のような結論が得られた。 1)周生期のラットの甲状腺は,胎齢16日から17日にかけて濾胞の形成とコロイドの蓄積が進行し,その後胎生期においては発達を続ける。出生後,1日から3日の間,発達が停滞するが,5日以降再び発達する。濾胞上皮細胞の粗面小胞体は,甲状腺の発達・分化の程度および機能状態を示す指標となりえる。 2)胎仔甲状腺の発達・分化は,胎仔下垂体の支配を受けるが,この下垂体-甲状腺系に対して視床下部は支配関係にない。 3)胎生期の下垂体-甲状腺系のネガティブフィードバック機構に対して視床下部は,関与していない。 4)下垂体-甲状腺系のネガティブフィードバック機構は,出生後5日までは機能的に停滞するが,5日以降7日までに再作動する。 5)胎生末期の胎仔および新生仔の下垂体は,外来的なTRHに反応してTSHを放出することができる。

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000054305
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000054427
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000218619
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
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