全自動エマルション解析システムの開発とその実用化

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Author
    • 青木, 茂樹 アオキ, シゲキ
Bibliographic Information
Title

全自動エマルション解析システムの開発とその実用化

Author

青木, 茂樹

Author(Another name)

アオキ, シゲキ

University

名古屋大学

Types of degree

理学博士

Grant ID

甲第2274号

Degree year

1990-02-28

Note and Description

博士論文

名古屋大学基本粒子研究室(略称: F研)では、荷電粒子の飛跡を1μm 未満という優れた空間分解能でその3次元構造を保持したまま記録できるエマルションを駆使して、bクオークやcクオークを陽に含んだ粒子などの短寿命で崩壊する粒子の研究を行ってきた。こうした粒子はその生成頻度が高くないので、旧来の解析方法だけに頼っていては統計的に限界があった。これを突破するために、カウンターなどのエマルションとは相補的な検出器との組み合わせによるハイブリッド実験を立案し、解析の対象とする反応を効率よく選別するための工夫をし、その一方で、エマルション解析自身の解析能力の強化を図ることが不可欠であった。飛跡の自動認識装置(トラック・セレクター : 後述)を組み込んだ全自動エマルション解析システムは、解析能力の大幅な向上を目指して開発してきたものである。 エマルションでは、記録される映像そのものが厚みを持った3次元情報であるため、その中の荷電粒子の飛跡の全自動解析を実現するには、顕微鏡のステージの3次元制御と、エマルション内各層における顕微鏡映像の画像処理とを有機的に同期させながら行わなければならない。これは非常に困難な開発事項を含んでおり、これまでに実用化に成功した例は無かった。本論文の全自動解析システムは、ステージ制御と画像処理をそれぞれNew DOMS、トラック・セレクターと名付けた専用のフロント・エンド・プロセッサーに行わせる形を採用することによって完成させることができた。成功の決め手となったのは、これらの専用プロセッサーによって、ホスト・コンピューターをそれ自身には大きな負担となるリアル・タイム性を要求される処理(ステージを駆動するモーターの制御やテレビカメラから入力したビデオ信号の処理等)から解放したことにある。 基本粒子研究室(F研)では、従来の半自動エマルション解析のステ-ジ制御用としてDOMSと呼ぶインテリジェント・インターフェイスを手作り的に製作・使用をしていた。New DOMSはこのDOMSの信頼性・互換性を高めたもので、回路のデザインを見直し各機能毎に1枚のプリント基板にまとめ、使用する際には必要とされる機能に応じた基板を組み合わせて全体を構築するという、モジュール化システムを採用している。 全自動解析システムのもっとも重要な部分となるトラック・セレクターは、人間がエマルションの映像を認識する方法にできるだけ似せて飛跡の自動認識を行っている。冒頭でも述べたように、エマルションの映像はそれ自身厚みを持った3次元情報となっており、解析する際には顕微鏡の対物レンズの有限な被写界深度(10μm 内外)で特定の焦点面の断層映像を得ることになる(標準的なエマルション・プレートの厚みは、100μm-1mm 程度)。人間がエマルション中の飛跡を認識する場合には、焦点面の位置を連続的に移動させながら断層映像の変化を観察することによって、人間の頭脳の中Cに3次元情報を再構成する。そこでトラック・セレクターでは、1枚のエマルション・プレートを十数層に区分し、それぞれの探さでの顕微鏡による断層映像をビデオ信号処理により2値化して各深さ毎に独立な画像メモリーに記録した上で、記事表された各探さの画像メモリーの信号を重ね合わせて、その重なりの度合いからそのプレートを貫通していた飛跡を認識するという方法を採っている。このような過程をソフトウェアーだけで行えば大規模なコンピューターを用いてもかなりの時間を要する事になるが、トラック・セレクターでは、ほとんどの過程を専用に設計したハードウェアーで実現することに成功したので、画像処理自身は光学系の機械制御に較べて無視できる時間内に完了できる。 これらのトラック・セレクターおよびNew DOMSの持つ個々の機能を、ホスト・コンピューターからの制御によって有機的に連結して一体のシステムとして完成させ、機能させることによって、エマルションの全自動解析を可能にした。 実際の解析の際には、光学系の機械制御、ホスト・コンピューターとトラック・セレクターおよびNew DOMSとの通信等に時間を要するが、飛跡群の認識測定は、1画面あたり5~10秒程度で処理が完了する。また、加速器からのビームを用いた飛跡の認識効率のテストでは、垂直に貫通する飛跡群に対して、さまざまな因子を含めた値として97%以上という極めて高い成績を得た。 この全自動解析システムを本格的に投入する初めての実験となったFermilab E653では、現在までに10^3を越えるチャーム粒子候補を伴う反応を集めるに至っている。この全自動解析システムの利用による解析能力の向上によって、エマルション実験の分野に新たな道を拓くことができた。

名古屋大学博士学位論文 学位の種類 : 理学博士(課程) 学位授与年月日 : 平成2年2月28日

Table of Contents
  1. 目次 (9コマ目)
  2. 副論文 (83コマ目)
  3. 副論文 (88コマ目)
  4. 参考論文 (111コマ目)
  5. 参考論文 (116コマ目)
  6. 参考論文 (118コマ目)
  7. 参考論文 (120コマ目)
  8. 参考論文 (122コマ目)
  9. 参考論文 (125コマ目)
  10. 参考論文 (128コマ目)
  11. 参考論文 (131コマ目)
  12. 参考論文 (134コマ目)
  13. 参考論文 (142コマ目)
3access
Codes
  • NII Article ID (NAID)
    500000064866
  • NII Author ID (NRID)
    • 8000000065038
  • DOI(NDL)
  • Text Lang
    • jpn
  • NDLBibID
    • 000000229180
  • Source
    • Institutional Repository
    • NDL ONLINE
    • NDL Digital Collections
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