周波数のランダムな変調モデルの一般化とその応用 Generalized Random Frequency Modulation Modeland Its Applications

この論文をさがす

著者

    • 丸山, 貴志子 マルヤマ, キシコ

書誌事項

タイトル

周波数のランダムな変調モデルの一般化とその応用

タイトル別名

Generalized Random Frequency Modulation Modeland Its Applications

著者名

丸山, 貴志子

著者別名

マルヤマ, キシコ

学位授与大学

総合研究大学院大学

取得学位

学術博士

学位授与番号

甲第3号

学位授与年月日

1992-03-16

注記・抄録

博士論文

確率過程は多くの分野で用いられており様々なモデルがあるが,本論文では,<br />特にランダム周波数変調モデルに焦点をあて,方法論の展開を行った。ランダ<br />ム周波数変調モデルは主として物理学における様々な現象の解析に応用されて<br />いるが,このモデルと他分野で用いられているモデルとの類似性に注意すること<br />によって,物理学において展開された方法論を他分野の問題へ適用すること<br />ができた。<br /> 本論文は,三つの部分より構成されている。まず,第I部では,ランダム周<br />波数変調モデルの特別な場合である球面上の拡散過程とFisher-Wrightモデル<br />の類似性について述べた。それから,第Ⅱ部で,ランダム周波数変調モデルの<br />一般化を行い,第Ⅲ部で,このモデルの集団遺伝学への応用を行った。<br /> ランダム周波数変調モデルは磁気共鳴吸収スペクトルの振舞いを説明するた<br />めにKubo(1954)とAnderson(1954)によって導入された。振動子の振動数<br />がランダムな変調を受けるというモデルで,注目しているスピンの感じる磁場<br />が周囲の環境揺らぎのために揺動するという現象に対応している。ランダム周<br />波数変調モデルで扱われているのはスピンの回転軸が固定されている場合であ<br />るが,本論文では拡張して,回転軸が変わる場合もモデルに含めて考える。す<br />なわち,ランダム周波数変調モデルをスピンの角速度がランダムに変化するモ<br />デルとして捉える。このモデルは,スピンの配向に注目すれば,球面上の確率<br />過程とみなすことができる。さらに,磁場の揺動の相関がデルタ関数(白色雑<br />音)の極限をとると,球面上の拡散過程となる。一方,Fisher-Wrightモデル<br />は集団遺伝学で用いられる典型的な確率過程で,生物進化における遺伝子の無<br />作為抽出の効果を議論するために導入されたモデルである。このモデルは変数<br />変換を行うと,ある突然変異率の場合に球面上の拡散過程と一致することが我<br />々の研究により明らかになった。第I部では,このことについて述べ,両者の<br />拡散方程式の固有値および定常解の比較を行った。<br /> ランダム周波数変調モデルは磁気共鳴だけでなく様々な問題に応用されてい<br />るが,従来の応用で取り扱われているのは,二状態遷移模型とガウス型模型<br />という特殊な場合に限られていた。これら二つの確率過程は,前者が離散的な二<br />つの状態をとるのに対して,後者は連続的な状態をとるという両極端な性質を<br />もち,両者を扱う方法論も異なっていた。スピン緩和や誘電緩和など具体的な<br />現象への応用を行った場合,従来のモデルではうまく説明がつかず,二つのモ<br />デルの中間的な振舞いを示すように思えるような例もある。そこで第Ⅱ部では,<br />両者を特別な場合として含むような形で確率過程の一般化を行い,統一的な方<br />法論での取り扱いを試みた。ここで取り扱うモデルはMaruyama and Shibata<br />(1988)で提案したモデルと同一であるが,多次元の場合への拡張を考えて,<br />異なった定式化を行った。モデルは二状態遷移模型の線形結合によって合成さ<br />れる。このモデルをランダム周波数変調モデルに応用し,相関関数およびパワ<br />ー・スペクトルの振舞いを調べた。Maruyama and Shibata(1988)ではダイヤ<br />グラムによる部分キュムラント(partial cumulant)展開を行ったが,ここで<br />は,固有関数展開を行った。また,個々の二状態遷移模型の分布を非対称分布<br />にすることによって,非対称性をも取り入れた。このような一般化を行うこと<br />によって,様々な現象に応用できるようになった。実際,ここで導入した確率<br />過程は光散乱や誘電緩和など物理学における様々な問題に応用されている。ま<br />た,第Ⅲ部では集団遺伝学への応用も行った。最近の誘電緩和に関する研究で,<br />実験データがこのモデルで非常によく説明できるという報告がなされており,<br />このモデルの有用性が示されてきている。<br /> 第Ⅲ部では,植物における自殖(自家受粉)および地理的な構造と遺伝的変<br />異の問題を考える。1960年代から,電気泳動法による植物における酵素タンパ<br />クの遺伝的変異が報告されているが,これらの研究により,植物集団の遺伝的<br />構造についていくつかの一般的な知見が得られてきている。例えば,他家受粉<br />を行う種は自家受粉を行う種と比べて高いレベルの遺伝的変異をもっているが,<br />自家受粉を行う種は他家受粉を行う種と比べて非常に大きな集団間の分散を示<br />す。また,他家受粉を行う種はランダム交配の場合と比べてヘテロ接合度が低<br />く,自家受粉を行う種は高いという結果が得られた(“ヘテロ接合度パラドク<br />ス”)。このような事実を説明するために,集団遺伝学的なモデルの構築を行<br />った。地理的な構造の効果がある場合の自殖と遺伝的変異の定量的な評価はこ<br />れまでになされていなかったので,まず,自殖率が一定の場合について自殖率<br />と遺伝的変異の関係を明らかにした。自殖率は遺伝的要因と環境的な要因によ<br />って決まっていると考えられる。前者は花の形など形態に影響を与えるもので,<br />後者は昆虫など花粉の媒体の状態を表すものである。後者の要因により自殖率<br />は時間的に揺動していると考えられる。そこで,この効果を考慮する。この問<br />題は物理学におけるランダム周波数変調モデルの応用として考えられ,第Ⅱ部<br />と同様の定式化を行うことができた。モデルの考察を行い観測事実のいくつか<br />は説明されたが,自家受粉を行う種に対する“ヘテロ接合度パラドクス”はう<br />まく説明できなかった。このことを説明するためには,自然淘汰など,その他<br />の要因を考慮に入れる必要がある。実験による自殖率などのパラメータの推定<br />は非常に難しいので,この点も検討する必要があるように思える。

application/pdf

総研大甲第3号

目次

  1. 目次 / (0003.jp2)
  2. 1 序論 / p1 (0005.jp2)
  3. 第I部 球面上の拡散過程とFisher-Wrightモデル / p4 (0008.jp2)
  4. 2 球面上の拡散過程 / p5 (0009.jp2)
  5. 3 球面上の拡散過程とFisher-Wrightモデル / p11 (0015.jp2)
  6. 第II部 ランダム周波数変調モデル / p17 (0021.jp2)
  7. 4 連続時間Markov連鎖 / p18 (0022.jp2)
  8. 5 ランダム周波数変調モデル / p24 (0028.jp2)
  9. 第III部 集団遺伝学への応用 / p45 (0049.jp2)
  10. 6 集団遺伝学への応用 / p46 (0050.jp2)
  11. 7 結論 / p71 (0075.jp2)
  12. 謝辞 / p73 (0077.jp2)
  13. 参考文献 / p74 (0078.jp2)
  14. 図の説明 / p80 (0084.jp2)
6アクセス

各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000090593
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000090814
  • DOI(NDL)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000254907
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
    • NDLデジタルコレクション
ページトップへ