水-土骨格連成極限つり合い解析に基づく複合地盤の支持力に関する研究

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著者

    • 小高, 猛司 コダカ, タケシ

書誌事項

タイトル

水-土骨格連成極限つり合い解析に基づく複合地盤の支持力に関する研究

著者名

小高, 猛司

著者別名

コダカ, タケシ

学位授与大学

名古屋大学

取得学位

博士 (工学)

学位授与番号

甲第2760号

学位授与年月日

1993-03-25

注記・抄録

博士論文

資料形態 : テキストデータ プレーンテキスト

コレクション : 国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文

剛塑性有限要素法は70年代に金属塑性の分野で生み出され、塑性加工の実務に多く応用されてきた。田村ら(1984)は、有限要素離散化によってはじめて適用が可能になる線形代数を用いて、上界定理から極限つり合い式を導くのに必要な線形制約条件についてミーゼス材に基づく深い考察を加え、剛塑性有限要素法に極めて明快な数学的構造を与えた。そして、この解析法の明快さと次に述べる土質力学におけるいくつかの「偶然」の重ね合わせが幸いして、土質工学の分野でうまく応用されるに至った。その偶然とはすなわち、(1)応力は有効応力と間隙水圧に分けられ、有効応力が土骨格の変形・破壊を支配する(有効応力原理)。しかし一方、(2)骨格は塑性体積ひずみを硬化パラメータにとり、体積変化が土の強度を支配する(限界状態土質力学)。ところが、(3)水は非圧縮のため、土骨格の体積変化は出入りする水の量が支配し、刻々の水の出入り量は透水係数が支配する(ダルシー則)。この2)に基づけば、破壊時の土の比体積さえあらかじめ分っていれば、その比体積から「土のミーゼス定数」が決まり、不均質ミーゼス材として飽和土の塊が定義でき、剛塑性有限要素法によって極限つり合いを解くことができる。しかし、誰が「破壊時の土の比体積」をあらかじめ言い当てることができるのか。これを解決してくれるのが、次の偶然であり、すなわち、粘土の透水係数は極めて小さく、非排水載荷(非圧縮載荷)が現実的意味をもち、砂の透水係数は極めて大きく完全排水載荷(破壊時過剰水圧がゼロ)も現実的な意味をもつ、ということであある。このようにして、結論を先に述べれば、飽和粘土の場合は、初期応力状態が破壊時の比体積・間隙水圧を決める条件式をひとつ提供し、砂の場合は「不均質ミーゼス体」の不均質性を同定する1相系のつり合い問題に帰着する。浅岡ら(1986,1987)が水一土骨格達成極限つり合い解析と呼んでいるものはこれに当たる。本研究の第一の目的は、このような「水一土骨格達成極限つり合い解析」を土の異方性と自然地盤の不均質性を正しく考慮してあらためて定式化し直し、浸透破壊まで含めて実際にあり得る土の破壊問題にどれだけ適用できるのかを見極めることにある。そして第二には、この「水一土骨格達成極限つり合い解析」を軟弱地盤を締固め砂杭で改良した複合地盤の支持力問題という、非常に複雑かつ工学的に重要度の高い問題に適用することにより、この解析法の工学的な真価を問うことにある。第2章では、地盤を不均質なミーゼス材料と見なして安定解析を行う手法について考察した。まず、最大塑性仕事の原理から得られる上界定理により、内部消散率を最小化することによって全応力に関する極限つり合い式を導き出すことができるが、不静定な極限つり合い問題を解くためには限界状態における構成式が必要となる。そのため、「カムクレイモデル」と「関口・太田モデル」の2つについて限界状態における構成式を誘導し、その逆関係式を極限つり合い式に代入することを試みた。2章での最大の成果のひとつは、極限つり合い式の構成式として、異方性を考慮できる「関口・太田モデル」を適用することに成功したことである。これによる解析結果は次の第3章で示されるが、支持力解析でははじめて、支持力のみならず、すべりの形状にも異方性が正確に反映される解析に成功した。これらの定式化の後、連成極限つり合い解析が今後期待される利用法として、破壊後の土の変形をも考慮した解析手法を示した。この解析手法を、粘土の非排水三軸圧縮試験の解析に通用した結果、1)解析によって求められた軸差応力~軸ひずみ関係の直線部の傾きは、実験で得られた軸差応力~軸ひずみ曲線の後半直線部の傾きと完全に一致する,2)そのような部分では、土はすでに破壊していることを示しており、軸差応力~軸ひずみ関係の勾配は供試体が圧縮に伴いビア樽状に変形していくgeometry changeの効果だけで決定される,3)破壊時の供試体中の過剰間隙水圧分布は非常に不均質なものであり、三軸試験はとてもエレメント試験と言えるものではない,等の興味深い知見を得た。第3章では、剛塑性有限要素法によって支持力解析を行う場合に、特異点,不均質地盤およびgeometry changeの3点の取り扱い方をめぐり、計算精度の改善についての幾つかの試みを行った。まず第1の試みは特異点の処理である。すなわち、特異点の座標に5節点を同時に与えることにより計算精度の向上を図った。例えば、飽和粘性土地盤の基礎の押込み問題ならば、Prandt1の解(π+2)cuに極めて近い値が得られる。第2は、深さ方向に強度が上昇するような不均質地盤の場合には、支持力は顕著にメッシュサイズに依存することから、なるべく少ない要素数で高精度の計算結果が得られる方法を提案した。ひとつは内部消散率が実地盤と等価となるようにsoil profileを離散化する方法の提案である。そして、もうひとつは計算領域内に存在する、剛体と見なせるほど速度場が相対的に小さい部分を削除し、繰り返し計算をする方法の提案である。この2方法を組合わせて作成したアルゴリズムの計算によって、大きな計算精度の向上があった。すなわち、従来の支持力解析の結果と比べ、20~30kPaの計算結果の改善があった。またそれ以上の成果として、支持力のみならず、速度場にも異方性が顕著に現われる解析に、おそらく世界ではじめて成功したことが挙げられる。すなわち、カムクレイモデルを用いれば盛土の法先にすべりが生じ、関口・太田モデルを用いれば盛土直下にすべりが生じる解析結果が得られた。第3は解析の対象とする物体の境界が幾何的に形状を変える場合に、初期の形状のみで支持力を評価する場合とそのgeometry changeを考慮する場合とでどれほど計算結果に違いが生じるのかを確かめた。すなわち、基礎の押込み問題では、geometry changeを考慮してメッシュを変形に伴い更新させながら解析を行った結果、最高で6.5%程度の支持力の増加が見られた。第4章では最初に土の破壊問題を水一土骨格連成問題の立場から、4つの破壊問題に分類した。すなわち、1)正規圧密粘土(ゆるい砂)の排水載荷問題,2)正規圧密粘土(ゆるい砂)の非排水載荷問題,3)過圧密粘土(密な砂)の排水載荷問題,4)過圧密粘土(密な砂)の非排水載荷問題,である。それらのうち1),2),4)は土が硬化するまま破壊に至るため、限界状態を破壊と見なす連成極限つり合い解析によってシミュレーションすることに問題はないが、3)は限界状態がピークを過ぎた後の残留状態に対応するため、この解析を用いることには限界があると考え、その適用限界を見極めるために、4つの破壊問題すべてについての室内模型実験と、連成極限つり合い解析を用いてそのシミュレーションを行った。その結果、1)・2)・4)の条件では、同一の土質パラメータを用いて実験結果を十分に説明することができた。排水条件や地盤の初期状態が全く異なるにも関わらず、3つの条件にまたがり同一の土質パラメータを用いて実験値をうまく説明できるというのは、解析の精度の高さを証明している。しかし、3)の密な砂の排水条件に関しては、支持力の下限値を求める解析となっているために十分な解析結果は得られず、この条件に関しては解析の適用性には限界があると判断した。第5章では、複合地盤の支持力問題に対し水一土骨格連成極限つり合い解析を適用することによって、1)砂杭の吸排水条件の検討,2)載荷する荷重の固さの影響の検討,3)砂杭打設後の周辺粘土の強度増加現象(排土効果)による低置換のSCP地盤の支持力増加の検討,の3つのアプローチを試みた。その結果、上記の1)と2)は密接に関連し、盛土のように軟らかい荷重が載荷される場合には、砂杭に杭頭から直接的に応力が集中しないため、砂杭部は負圧からもたらされる拘束圧によって複合地盤を支える非排(吸)水条件の方が大きな支持力を発揮し、一方固い基礎が載荷される場合には砂杭には杭頭から直接的に応力集中が生じ、それ自身が大きな拘束圧となるために、砂杭部排水条件の方が大きな支持力を発揮することが分かった。また、砂杭杭頭への鉛直応力集中度は、砂杭には粘土部の約4.3~5.3倍の鉛直応力が加えられていることが分かった。また、3)に挙げた排土効果は、従来砂杭打設による粘土地盤の「乱れ」としてしか扱われなかったが、円筒押し拡げの境界条件に水-土骨格連成極限つり合い解析を用いてシミュレーションした結果、舞鶴港の現地破壊実験の結果も十分説明できることが分かった。このように杭間粘土の強度上昇が簡単な解析を用いて予測できるようになることは、将来的にSCP工法を軟弱地盤の大規模掘削問題等に応用する場合に非常に役立つと考える。本論文の主要な目的であった、水-土骨格連成極限つり合い解析がさまざまな土の破壊問題にどれだけ適用できるのかを見極めるということは、第4章の浸透力を用いた破壊実験とそのシミュレーションを通して、密な砂の排水載荷問題以外には高精度で適用できることが示されたことによって達成できたと考える。また、もうひとつの重要な目的である、水-土骨格達成極限つり合い解析を軟弱地盤を締固め砂杭で改良した複合地盤の支持力解析に適用することによって、この解析の工学的な真価を問うということについては、第5章の複合地盤の支持力解析でこの解析を用いたからこそ、支持力発揮のメカニズムについて、1)砂杭の排水条件,2)載荷重の固さ,3)排土効果等の新しい仮説を取り入れることができ、その結果として数々の新たな知見が得られたことを考えれば、十分その目的も達成されたとみてよいだろう。もちろん第4章,第5章の解析ができたのは、第2章での色々な形の剛塑性問題の定式化や関口・太田の構成式の導入、そして第3章の特異点処理等の解析の精度改善のテクニックを生かすことができたからであることは言うまでもない。

名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(工学) (課程) 学位授与年月日:平成5年3月25日

目次

  1. 目次
  2. 1 序論
  3. 参考文献
  4. 2 剛塑性有限要素法による水一土骨格連成極限つり合い解析と変形解析
  5. 2.1 概説
  6. 2.2 上界定理による極限つり合い式の誘導
  7. 2.3 土の限界状態における構成式
  8. 2.4 水一土骨格連成解析
  9. 2.5 水一土骨格連成剛塑性変形解析
  10. 2.6 結論
  11. 参考文献
  12. 3 計算精度の改善一特異点,不均質地盤,geometry change の取扱い-
  13. 3.1 概説
  14. 3.2 特異点処理によるミーゼス材料の支持力計算の精度の改善
  15. 3.3 深さ方向に強度が増大する不均質地盤の支持力計算の精度改善
  16. 3.4 剛塑性変形解析によるgeometry change の効果の評価
  17. 3.5 結論
  18. 参考文献
  19. 4 浸透力を用いた破壊実験による連成極限つり合い解析の破壊問題への適用性の検討
  20. 4.1 概説一土の破壊問題の分類ー
  21. 4.2 実験試料,実験装置および実験手順の概要
  22. 4.3 2次元浸透破壊実験
  23. 4.4 実験のシミュレーションと適用性の検討
  24. 4.5 結論
  25. 参考文献
  26. 5 軟弱地盤を締固め砂杭で改良した複合地盤の支持力問題への適用
  27. 5.1 概説
  28. 5.2 砂柱を含む粘土の三軸圧縮試験による複合地盤の排水,非排水条件での支持力
  29. 5.3 複合地盤モデルの支持力解析
  30. 5.4 砂杭打設に伴う排土効果の考察
  31. 5.5 舞鶴港現地破壊実験の事後解析
  32. 5.6 結論
  33. 参考文献
  34. 6 結論
  35. 謝辞
  36. A1 部分排水支持力の計算
  37. A1.1 概説
  38. A1.2 部分排水支持力解析手法
  39. A1.3 部分排水支持力解析を用いた最近の研究
  40. A2 超低拘束圧下での一次元非定常浸透圧密・膨潤実験
  41. A2.1 概説
  42. A2.2 試料と実験装置
  43. A2.3 実験方法
  44. A2.4 実験結果の整理法
  45. A2.5 実験結果と考察
  46. A3 連成極限つり合い解析による互層地盤の掘削安定解析
  47. A3.1 概説
  48. A3.2 均一砂質地盤の掘削安定解析
  49. A3.3 透水係数の異なる2層系互層地盤の掘削安定解析
  50. A3.4 結論
  51. A4 密な砂の浸透過程での気泡発生メカニズムの検討
  52. A4.1 概説
  53. A4.2 実験試料,実験地盤および使用水
  54. A4.3 実験条件
  55. A4.4 実験観察記録
  56. A4.5 透水量の計測結果
  57. A4.6 DOの計測結果にみる気泡の発生原因
  58. A4.7 自然界の水の溶存空気量
  59. A4.8 一次元浸透実験による気泡の発生・発達の検討
  60. A4.9 気泡発生・発達に伴う進行性破壊のメカニズムの検討
  61. A4.10 結論
  62. A5 単一砂杭を含む粘土地盤の平面ひずみ条件と軸対称条件での支持力の比較
  63. A5.1 概説
  64. A5.2 解析条件
  65. A5.3 支持力解析結果
  66. A4.4 剛基礎に加わる接地圧分布
  67. A4.5 まとめ
  68. 参考文献
20アクセス

各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500002013943
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000002577891
  • DOI(NDL)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000260059
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
    • NDLデジタルコレクション
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