エブセレンの胃粘膜損傷抑制作用機作と胃粘膜上皮粘液細胞株の樹立

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著者

    • 田渕, 圭章 タブチ, ヨシアキ

書誌事項

タイトル

エブセレンの胃粘膜損傷抑制作用機作と胃粘膜上皮粘液細胞株の樹立

著者名

田渕, 圭章

著者別名

タブチ, ヨシアキ

学位授与大学

富山医科薬科大学

取得学位

博士 (薬学)

学位授与番号

乙第271号

学位授与年月日

1995-02-15

注記・抄録

博士論文

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グルタチオンペルオキシダーゼ(EC1.11.1.9.)はグルタチオンと過酸化水素または脂質過酸化物を基質にし,哺乳動物の組織,特に赤血球に多量に存在する抗酸化作用に携わる酵素である.分子量は約90 kDaで,1分子あたり4個のセレン原子を含む.その活性中心は芳香環近傍のセレンスルフィド(Se-S)と考えられており,低分子量化合物であってもこれに類似した構造を有していればグルタチオンペルオキシダーゼ様活性を持つ可能性が考えられる. エプセレン(ebselen ; 2-phenyl-1,2-benzisoselenazol-3(2H)-one)はこの様な考えに基づいて開発された低分子セレン有機化合物で,in vitroにおいてグルタチオンペルオキシダーゼ様作用に加えて5-リポキシゲナーゼおよびサイクロオキシゲナーゼ限害作用等を有する. 本薬は,種々の実験的病態モデルにも有効で,ガラクトサミン惹起肝障害,虚血性脳浮腫,糖尿病,急性膵障害,腎虚血再還流障害モデル等を抑制することが報告されている. 日本では現在,エプセレンは臨床においてクモ膜下出血に対してフェイズIII 試験を実施中で,脳梗塞急性期に対してはフェイズIIb 試験が終了している. 一方,消化器疾患への適応も考慮されている. 胃粘膜損傷は胃酸,ペプシン等の攻撃因子と胃粘液,胃粘膜血流等の防御因子のアンバランスによって起こると考えられている. 脂質過酸化,フリーラジカル,ペプチドロイコトリエン(pLT),等も胃粘膜損傷形成に関与することが示唆されている. また近年, Beilらによりエプセレンは胃酸分泌の最終段階に関与するH^+,K^+-ATPaseを阻害することが示された. これらの知見から,エプセレンは胃液分必および胃粘膜損傷抑制作用を有する可能性が推察されるが,in vivo実験モデルにおいてそれらを明確に示した報告はない. そこで,幽門結紮ラットを用いてエプセレンの胃液分泌抑制活性の検出を試みた. また,本薬の胃粘膜損傷抑制作用を損傷発現に胃酸の関与が大きいとされるラット水浸拘束ストレスおよびアスピリン胃粘膜損傷モデルおよび,ガストロプロテクシヨンの検出モデルであるラット塩酸,ラット塩酸―エタノールおよびマウスエタノール胃粘膜損傷モデルで検討した. その結果,エプセレンは胃液分必および胃粘膜損傷抑制作用を有すること,および本薬の胃粘膜損傷抑制作用機序の少なくとも一部に脂質過酸化およびpLT産生の抑制が関与することが示された. H^+,K^+-ATPaseは酵素反応サイクルの中でリン酸化中間体を形成するP型ATPase,これまでに種々の作用機作に基づくモノクローナル抗体や阻害剤が開発されている. 先にも記述したが,エプセレンはH^+,K^+-ATPaseを抑制し,その作用部位はH^+,K^+-ATPase阻害剤オメプラゾールと同様に酵素のスルヒドリル基であることが明らかにされている. しかし, 酵素反応サイクルの部分反応に対する作用は検討されていない. 今回,プタ胃体部粘膜よりH^+,K^+-ATPaseを含む胃ベシクルを調製し,H^+,K^+-ATPaseの部分反応(リン酸化,脱リン酸化およびE_1からE_2Kへのコンフォメーション変化に対するエプセレンの効果を検討した. その結果,本薬は酵素のスルヒドリル基に作用し,主に脱リン酸化過程を抑制して酵素を阻害することが判明した. 胃粘膜上皮粘液細胞は種々の防御因子を産生し,攻撃因子から胃粘膜を保護している. この細胞を含む胃粘膜上皮細胞の培養系は未だ確立されたものがなく,また機能を有した細胞株樹立の報告もない. 近年,特異的機能を保持した不死化細胞樹立のためにsimian virus 40 large T(SV40 large T)抗原遺伝子が用いられている. さらに,温度感受性突然変異株tsSV40 large T抗原遺伝子を導入したトランスジェニックマウスから種々の細胞株が確立されている. 著者らはtsSV40 large T抗原遺伝子導入トランスジェニックマウスの胃粘膜初代培養系から2種類の胃粘膜上皮粘液細胞株(GSM06およびGSM10)の樹立に成功した. GSM06細胞は温度感受性の細胞増殖を示し,また種々の正常胃粘膜上皮粘液細胞に見られる機能を有することが明らかとなった. エプセレンの胃粘膜損傷抑制作用機序を明らかにする目的で,GSM06細胞のエタノール障害に対する本薬の効果を検討した. エプセレンはエタノール細胞障害を有意に抑制し,その抑制作用機序の少なくとも一部に脂質過酸化の阻害が関与することが示された. 本稿では,これらについて三部に分けて記述する.

Article

富山医科薬科大学・博士(薬学)・乙第271号・田渕圭章・1995/2/15

目次

  1. 目次 / (0003.jp2)
  2. 序論 / p1 (0004.jp2)
  3. 第一部 エブセレンのラット胃液分泌および各種ラットまたはマウス胃粘膜損傷に対する作用 / p3 (0006.jp2)
  4. 第二部 エブセレンのブタ胃H⁺,K⁺-ATPase阻害作用機序の検討 / p16 (0019.jp2)
  5. 第三部 オンコジーン導入トランスジェニックマウスからの胃粘膜上皮粘液細胞株(GSM06およびGSM10)の樹立およびGSM06細胞のエタノール障害に対するエブセレンの効果 / p26 (0029.jp2)
  6. 結論 / p50 (0053.jp2)
  7. 謝辞 / p52 (0055.jp2)
  8. 引用文献 / p53 (0056.jp2)
3アクセス

各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000139160
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000987699
  • DOI(NDL)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000303474
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
    • NDLデジタルコレクション
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