日本の生活文化における音環境の分節化の構造に関する基礎的研究 日本の生活文化における音環境の分節化の構造に関する基礎的研究 ニホン ノ セイカツ ブンカ ニ オケル オト カンキョウ ノ ブンセツカ ノ コウゾウ ニ カンスル キソテキ ケンキュウ
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- タイトル
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日本の生活文化における音環境の分節化の構造に関する基礎的研究
- タイトル別名
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日本の生活文化における音環境の分節化の構造に関する基礎的研究
- タイトル別名
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ニホン ノ セイカツ ブンカ ニ オケル オト カンキョウ ノ ブンセツカ ノ コウゾウ ニ カンスル キソテキ ケンキュウ
- 著者名
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永幡, 幸司
- 著者別名
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ナガハタ, コウジ
- 学位授与大学
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九州芸術工科大学
- 取得学位
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博士 (芸術工学)
- 学位授与番号
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甲第14号
- 学位授与年月日
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1998-03-18
注記・抄録
博士論文
資料形態 : テキストデータ プレーンテキスト
コレクション : 国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
本論文は、日本の生活文化における音環境の分節化の構造を明らかにする事を目的とするものである。 音環境を分節化する際の構造は、音環境を分節化する人の置かれているコンテクストに依存しているので、検討の際には個々の状況とその際の分節化の構造との関係から考察する必要がある。 本論文においては、互いに異なる3つの特徴的な状況に着目し、その状況下における音環境を分節化する構造について検討した。それらの状況は、「視覚障害者が音から場所を特定する過程」「俳句に詠み込まれた音環境における詠まれた音とその音が聞かれた季節、空間との関係性」「ある集落全体に聞こえるように鳴らされる音が騒音と見なされない事例における歴史的及び社会的背景」である。 「視覚障害者が音から場所を特定する過程」についての検討では、視覚障害者に彼らが実際に行ったことのある場所で録音した音を聞かせ、それらがどこの音であるのかを持定させ、さらに、その場所であると特定した理由について自由回答を求めた。得られた回答を分析した結果、視覚障害者が音から場所を特定する際の分節化の構造について、次のようなことが明らかとなった。視覚障害者が音から場所を特定する際に用いる音は多岐に渡っており、それらの音を用いる過程としては、ある音の存在から大雑把に場所の特徴を特定した後に、他の音の存在から詳しく場所を特定するという「階層的」な過程と、ある場所で聞かれる特徴的な音全てを総合的に判断することで場所を特定するという「並列的」な過程の2種類の過程があり、人によってそのどちらかを採用していた。また、「階層的」な過程を採用するにせよ、「並列的」な過程を採用するにせよ、音から場所を特定する際に具体的に用いている音は、人によって異なっていた。 「俳句に詠み込まれた音環境における詠まれた音とその音が聞かれた季節、空間との関係性」の検討では、江戸時代から現代までの音について詠まれた俳句3,810句を、詠まれた音、季節、空間、その句が詠まれた時代について分類し、統計的解析を行った。分析により次のことがわかった。俳句に詠み込まれた音環境は、音と空間の特性との関係によって、自然空間の音風景、居住空間の音風景、水辺の音風景、社寺仏閣の音風景の4つに分類することができ、このような音環境の分節化の構造そのものは、時代の流れに関わらず一定であった。その中で、昔は自然空間の音風景がよく詠まれていたのに対して、現代ではそれらが減少し、人の生活行為にまつわる音風景が取り上げられることが増加している。また、時代と共に、俳句の中で詠み込まれるような音環境のパターンは減少している。そして、ある季節のある空間の情景や、日常生活のある一場面を象徴するような音は、俳句に詠み込まれることが減少し、逆に、そのような象徴作用を持たない音が、多く詠み込まれるようになってきている。このことより、日本の音文化には音を季節や空間の象徴として、あるいは、日常生活の一場面の象徴として敏感に読み取り、そこに情緒を感じるという伝統があったが、そのような文化は失われつつあると考える。 「ある集落全体に聞こえるように鳴らされる音が騒音と見なされない事例における歴史的及び社会的背景」についての検討では、山口県の離島において、集落全体に響き渡るように鳴らされているサイレン及び放送が騒音としては分節化されていないという事例について、それらが鳴らされるようになった歴史的背景について聞き取り調査を行い、さらに、現在それらの音が集落の成員にどのように受け止められているかについてのアンケート調査を行った。その結果、「ある音を共有する」ということを「人によって意味が違ったとしても、その音に価値があることは誰でも共通に認めている状況」を意味することにすると、集落全体で共有されている音は、騒音とは分節化されないことが明らかとなった。逆に、集落全体で共有化されていない音は、騒音として分節化され得ることが明らかとなった。 そして、これらの結果の検討より、音環境の分節化の構造の持つ特徴として次のことを明らかにした。人間が音環境を分節化する際に、どのような音をその空間を特徴づける音として分節化するのか、そして、分節した音にどのような意味を付与するのかについての構造を規定するのは、知覚する主体のおかれている総合的状況である。そして、知覚する主体である人間のおかれている状況によっては、音環境の分節化に社会的文脈が大きな影響力を持つような状況と、個人的な文脈が大きな影響力を持つような状況の両者が存在している。そして、音環境に何らかの変更を加える際には、その場に居合わせ得る人達全てに、いかにしてその変更を共有化させるかということが、重要な課題であるということを示した。
目次 第1章 序論 第2章 視覚障害者が音から場所を特定する過程に見られる音環境の文節化の構造について 第3章 俳句に詠み込まれた音環境に見られる音環境の分節化の構造について 第4章 島中に響き渡る音に対する島民の意識に見られる音の分節化の構造について 第5章 結論 参考文献 関連論文一覧 図目次 表目次 謝辞
目次
- 目次
- 第1章 序論
- 1.1 はじめに
- 1.2「分節」という概念の導入
- 1.3 研究の背景
- 1.4 本論文の構成
- 第2章 視覚障害者が音から場所を特定する過程に見られる音環境の分節化の構造について
- 2.1 はじめに
- 2.2 視覚障害者が音から場所を特定する過程に見られる音環境の分節化の構造について
- 2.3 まとめ
- 第3章 俳句に詠み込まれた音環境に見られる音環境の分節化の構造について
- 3.1 はじめに
- 3.2 分析対象とした俳句
- 3.3 時代区分
- 3.4 俳句に詠み込まれた音環境の分節化の構造の包括的分析
- 3.5 俳句に詠み込まれた音環境の分節化の構造の時代による差異についての分析
- 3.6 俳句における音の詠み込まれ方にみる音風景の分節化の構造とその時代変遷
- 3.7 まとめ
- 第4章 島中に響き渡る音に対する島民の意識に見られる音の分節化の構造について
- 4.1 はじめに
- 4.2 調査対象地域概要
- 4.3 サイレンと放送の時代変遷についての聞き取り調査
- 4.4 サイレンと放送についての島民の意識調査
- 4.5 検討
- 4.6 まとめ
- 第5章 結論
- 参考文献