醸造用酵母(Saccharomyces cerevisiae)の育種に関する研究

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著者

    • 河村, 大造 カワムラ, ダイゾウ

書誌事項

タイトル

醸造用酵母(Saccharomyces cerevisiae)の育種に関する研究

著者名

河村, 大造

著者別名

カワムラ, ダイゾウ

学位授与大学

広島大学

取得学位

博士 (工学)

学位授与番号

乙第3213号

学位授与年月日

1999-03-11

注記・抄録

博士論文

清酒醸造およびアルコール発酵の工程改善と製品品質の向上を図るため,これに用いる酵母Saccharomyces cerevisiaeの増殖限界温度の改善を主目的に研究を行った。清酒酵母では低温増殖性・発酵性の向上とそれに付随して見出した凝集泡なし性について,アルコール発酵酵母では高温発酵性・増殖性の向上について育種を行った。第1章では低温清酒酵母の育種についてまとめた。清酒醸造では17,18℃以下の低温下で発酵が行われる。これは並行複発酵の糖化とアルコール発酵のバランスをとることが一つの理由であり,もう一つは高温で発酵させると有機酸生成が多くなるなど酒質が悪化することが理由である。さらに,吟醸酒醸造ではより低い10℃以下で発酵が行われ,酸度が低く,香りの高い吟醸酒が醸造されている。しかし,もろみ温度が低いと酵母の増殖速度が遅く,アルコール生成速度も遅いため,発酵日数が長くなる。低温下で増殖力・発酵力の強い酵母を育種できれば,発酵日数が短縮でき,より低温での清酒醸造が可能になり,清酒品質の向上にもつながると考えられる。そこで,低温下で増殖力・発酵力の強い酵母の育種を試みた。清酒酵母広島2号から低温下で増殖力・発酵力の強い一倍体変異株(H2-5-62株)を分離・選択した。もろみ温度9℃および12℃での小仕込試験から,このH2-5-62株は従来の吟醸用酵母には劣るものの,一倍体酵母としては低温下での発酵力が強く,吟醸用酵母を育種する際の原菌株として有用であることが認められた。もろみ温度15℃および18℃での小仕込試験の結果から,従来の普通醸造用酵母と同等の発酵力を示すことが明らかになった。また,中間工業規模の仕込試験によって,H2-5-62株は一倍体のままでも清酒醸造が可能であり,普通醸造用酵母を育種する際の原菌株としても有用であることが確かめられた。第2章では,第1章で清酒酵母から低温増殖性の向上した一倍体酵母を取得できたので,その低温増殖性酵母の遺伝的性質を検討した結果と低温増殖性を付与する遺伝子のクローニングを行った結果についてまとめた。酵母の低温増殖性変異株を分離し,その遺伝的性質を検討した。2種類の優性低温増殖性変異遺伝子の存在が明らかとなった。それぞれLTG1,LTG2(low temperature growth gene)と命名した。一倍体株では遺伝子を2個保持する株の低温増殖性が強く,二倍体株では遺伝子を2個あるいは3個保持する株の低温増殖性が強く,特に,LTG1-1遺伝子のホモザイゴート株(LTG1-1/LTG1-1株,LTG1-1 LTG2-1/LTG1-1株)の中に低温増殖性の強い株の存在することが認められた。また,清酒酵母から得た一倍体株より低温増殖性変異株(LTG2変異株の可能性が高い)を取得して,清酒もろみ中での発酵力を検討した。その結果,元の野生型株に比べて変異株の発酵力が大きく向上したことが認められた。低温増殖性に関係する遺伝子の存在が確かめられたので,その遺伝子のクローニングを試みた。トリプトファン要求性のS. cerevisiae YNN140株に低温増殖能を付与する遺伝子をクローニングし,LTG3(low temperature growth gene)と命名した。この遺伝子を破壊すると低温下での増殖が認められなくなることが明らかになった。この遺伝子が低温増殖に及ぼす影響は菌株によって異なることがわかった。塩基配列の解析から,592のアミノ酸をコードするORFが含まれていること,ホモロジー検索から,そのタンパク質のアミノ酸配列は数種類のアミノ酸パーミアーゼとホモロジーのあることがわかった。培地にトリプトファンを大量に添加するとYNN140株が低温増殖能を示すことから,LTG3遺伝子はトリプトファンの取り込みに関係しており,培地からのトリプトファンの取り込みが低温下での増殖を制限していると考えられた。LTG3遺伝子を含むクローニングされたDNAの塩基配列の一部がSUP3遺伝子のそれと一致したので,LTG3遺伝子もまた第XV番染色体上に存在することが明らかになった。第3章では凝集泡なし性清酒酵母についてまとめた。第1章において清酒酵母から低温下で増殖力の強い一倍体酵母を分離し,仕込試験を行った。その際,その分離株はもろみ中で凝集・吸着し,同時に泡なし性を有することを認めた。本来,清酒酵母はもろみ期間の前半において高泡を形成する。この泡のため,仕込量を控えることを余儀なくされ,泡消し作業の労力も必要となる。泡なし性はこれらの問題を解消できるため,清酒酵母にとっては非常に有用な性質である。泡なし酵母は既に実用化されているが,その従来の泡なし酵母の性質と今回第1章で分離した酵母の凝集泡なし性との違いを明らかにした。清酒もろみにおいてほとんど泡を形成せず,もろみ中で酵母細胞が凝集・吸着性を示すH2-5-62株(清酒酵母広島2号から分離選択した一倍体低温清酒酵母)から同様の性質を有する二倍体酵母を造成し,その細胞表面的性質・遺伝的性質・酒造適性を検討した。酵母細胞の気泡への吸着・水-有機溶媒二相系での分配・乳酸菌による凝集・ろ紙繊維への吸着などを比較した結果,この凝集泡なし酵母の細胞表面は従来の泡なし酵母とは異なり,泡あり酵母と同じであると考えられた。また,もろみ末期に発酵力の鈍る地蓋形成酵母と似た細胞表面的性質を示した。この凝集泡なし性は従来の泡なし性とは異なる遺伝子によるものであると推定された。小仕込試験の結果から凝集泡なし酵母は優れた酒造適性を持つことも明らかになった。第4章では高温下で発酵力・増殖力の強い酵母を育種した結果についてまとめた。酵母S. cerevisiaeの増殖・発酵の最適温度は30℃前後であるが,アルコール発酵において発酵が盛んになると発酵熱を生じ,もろみ温度が上昇する。発酵を効率良く継続するにはもろみの冷却が必要となり,大規模な発酵生産ではその冷却費用が多大となる。高温でも増殖・発酵にできるだけ支障をきたさない酵母を育種できれば,冷却費用の節減となり,アルコール発酵の工程改善にもつながる。そこで,まず,実用のアルコール発酵酵母とピンガ酒醸造用酵母から,それぞれ一倍体株を分離して発酵力の強い株を選択した。それらを交雑して,40℃,42℃において,元の一倍体株の両親株より強い発酵力を持つ雑種二倍体株を取得した。取得した交雑株は42℃で増殖可能であり,その高温増殖性の発現は複数の遺伝子に支配されていた。また,本来,高温増殖性とは無縁の酵母から42℃で増殖可能な酵母を育種することができた。

目次 / p1序論 / p3第1章 低温清酒酵母の育種 / p5 緒言 / p5 実験方法 / p5 結果 / p7 考察 / p10 要旨 / p10第2章 低温増殖性酵母の遺伝的性質と酵母に低温増殖能を付与する遺伝子のクローニング / p22 緒言 / p22 実験方法 / p22 結果 / p25 考察 / p34 要旨 / p36第3章 凝集泡なし酵母の育種とその性質 / p61 緒言 / p61 実験方法 / p61 結果 / p64 考察 / p67 要旨 / p68第4章 高温下で発酵力・増殖力の強い酵母の育種 / p83 緒言 / p83 実験方法 / p83 結果 / p85 考察 / p89 要旨 / p90要約 / p100参考文献 / p104謝辞 / p108関連公表論文 / p109

目次

  1. 目次 / p1 (0003.jp2)
  2. 序論 / p3 (0005.jp2)
  3. 第1章 低温清酒酵母の育種 / p5 (0007.jp2)
  4. 緒言 / p5 (0007.jp2)
  5. 実験方法 / p5 (0007.jp2)
  6. 結果 / p7 (0009.jp2)
  7. 考察 / p10 (0012.jp2)
  8. 要旨 / p10 (0012.jp2)
  9. 第2章 低温増殖性酵母の遺伝的性質と酵母に低温増殖能を付与する遺伝子のクローニング / p22 (0024.jp2)
  10. 緒言 / p22 (0024.jp2)
  11. 実験方法 / p22 (0024.jp2)
  12. 結果 / p25 (0027.jp2)
  13. 考察 / p34 (0036.jp2)
  14. 要旨 / p36 (0038.jp2)
  15. 第3章 凝集泡なし酵母の育種とその性質 / p61 (0063.jp2)
  16. 緒言 / p61 (0063.jp2)
  17. 実験方法 / p61 (0063.jp2)
  18. 結果 / p64 (0066.jp2)
  19. 考察 / p67 (0069.jp2)
  20. 要旨 / p68 (0070.jp2)
  21. 第4章 高温下で発酵力・増殖力の強い酵母の育種 / p83 (0085.jp2)
  22. 緒言 / p83 (0085.jp2)
  23. 実験方法 / p83 (0085.jp2)
  24. 結果 / p85 (0087.jp2)
  25. 考察 / p89 (0091.jp2)
  26. 要旨 / p90 (0092.jp2)
  27. 要約 / p100 (0102.jp2)
  28. 参考文献 / p104 (0106.jp2)
  29. 謝辞 / p108 (0110.jp2)
  30. 関連公表論文 / p109 (0111.jp2)
9アクセス

各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000185396
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000185678
  • DOI(NDL)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000349710
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
    • NDLデジタルコレクション
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