痴呆性高齢者の記憶障害に対する補助環境に関する研究

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著者

    • 大橋, 美幸 オオハシ, ミユキ

書誌事項

タイトル

痴呆性高齢者の記憶障害に対する補助環境に関する研究

著者名

大橋, 美幸

著者別名

オオハシ, ミユキ

学位授与大学

横浜国立大学

取得学位

博士 (工学)

学位授与番号

甲第388号

学位授与年月日

2000-03-23

注記・抄録

博士論文

痴呆では早期から記憶障害(物忘れ)が問題となる。特に最近の出来事に関するエピソード記憶の障害が顕著であり、過去の習慣による乗っ取り型エラーを起こしやすい。記憶障害は日常生活の様々な面に支障をきたすが、居住環境の記憶に関する補助機能を高めることで一部解消できる。具体的には①記憶内容の一部を視覚化・聴覚化することで想起の手がかりを提供したり、②記憶が必要な行為の一部を自動化してエラーを防いだり、忘却や記憶違いによってエラーが起こっても大きな事故につながらないような準備をしておくことができる。従来、痴呆性高齢者の居住環境について、このような視点からの研究はほとんど行われていない。「記憶に対する補助」という点から居住環境を捉え、痴呆性高齢者の日常生活を補う方法を検討することは有用であると考える。本研究は、居住環境の記憶に対する補助機能を調査し、痴呆性高齢者に応じた居住環境の構築に役立てることを目的とする。本論文は序論、本論3章、結論からなる。以下に要約を記す。序論 痴呆性高齢者の記憶障害特性と居住環境の記憶補助機能、研究目的、方法、既往研究と本研究の位置づけについて述べた。本論 第1章 高齢者及び介護者による記憶補助の手法と有効性 本章では、痴呆性高齢者や介護者が行っている物忘れに関する工夫を整理することで、居住環境の補助機能を高める手法と有効性を明らかにした。調査は、物忘れを補う工夫について痴呆性高齢者及び介護者から聞き取りを行った。調査項目は工夫の目的、方法、実施者(高齢者/介護者)、使用状況、効果であった。結果は以下の通りである。①記憶障害の全ての段階で居住環境の記憶補助機能を高める可能性があり、環境づくりに対する援助が必要である。②移動性が小さい工夫は、補助機能を利用する空間的・時間的文脈合、固定された場所に依存できるため、痴呆性高齢者が利用しやすく、さらに、一定の場所に固定されているため、周囲の人が痴呆性高齢者を手助けしやすい。また、移動性が小さい工夫は、あらかじめ設備や居室配置などに埋め込んでおくことが可能である。③記憶補助機能を高める手法は図のとおりである。 第2章 想起された出来事の文脈と手がかり使用の傾向 本章では、痴呆性高齢者で問題となりやすい最近の出来事に関するエピソード記憶を取り上げ、想起の手がかりとしての居住環境を検討した。調査は、痴呆性高齢者と居室において自由会話を行った。会話の中から過去から現在までの出来事に関するものを取り上げ、内容、想起に利用された手がかりをまとめた。出来事相互の関係や現従へのつながりを含めて分析を行った。結果は以下の通りである。①記憶障害の全ての段階で、適切な手がかりによって、失われた時を取り戻し、現在へつなげていく可能性が考えられる。②手がかりの中で「最色・天候・季節」「音・匂い」は多様な事柄を思い出させていた。逆に「写真」「家具」は特定の事柄を思い出させていた。利用される手がかりは、記憶障害が重度になるに従って、日常的に接する機会があるものへ移り、最重度で利用されていたのは「高齢者自身」「音・匂い」などであった。想起内容の中で、家族に関する事柄は、様々な手がかりによって話されていた。逆に、最近の天候、生い立ち、昔の職業に関する事柄は、特定の手がかりによって話されていた。記憶障宮が重度になるに従って、最近の出来事に関する話題が減り、最重度では、生い立ち・家族・昔の職業などが話されていた。③想起内容の間違いは、軽度では、毎年の旅行など、同じ種類の出来事が繰り返し起こっている場合、前後関係が区別できなくなり、2つの出来事が混じってしまっていた。中等度では、以前の出来事を思い出せないために、最近の出来事の分脈が変わり、違う解釈になってしまっていた。重度・最重度では、現在のわずかな手がかりから、過去の出来事の多くを説明しようとするため、過去の認識が大きく異なったものになってしまっていた。 第3章 過去の習慣による乗っ取り型エラーにおける状況の類似性 本章では、痴呆性高齢者で起こりやすい過去の習慣による乗っ取り型エラーを取り上げ、エラーを制御する環境を検討した。調査は、過去の習慣によると推測される間違いについて、痴呆性高齢者及び介護者から聞き取りを行った。制査項目は間違いの内容、取り違えたものの類似性、生活内容を変更してからの経過などであった。結果は以下の通りである。①記憶障害の全ての段階で、エラーを制御する環境を検討し、環境づくりを援助していく可能性がある。②記憶障害が比較的軽い場合は、主に高齢者に積極的に働きかけ、現在の状況を詳しく知らせる手がかりが必要である。生活内容を変更した場合は、これまでの習慣との相違点を示して間違いを防ぐと共に、新しい状況での経験の積み重ねを助ける工夫が必要である。記憶障害が進むと、主に過去の出来事と現在を正しい分脈でつなげるための手がかりが必要である。新しい状況での経験をこれまでの出来事の延長線上に積み重ね、生活像の修正を助ける工夫が必要である。加えて、間違いが起こっても大きな事故につながらない安全対策が重要である。 結論 本論を総括し、居住環境の記憶補助機能を捉えた。痴呆性高齢者に応じた居住環境の構築に向けた考療を行った。①あらかじめ設備や居室配置などに記憶補助機能を埋め込んでおくと共に、後から個々に対応して機能を変吏できるようにしておくことが必要である。今後、環境移行への対応を含めた多職種による支緩システムが必要であると考える。②記憶内容の一部を文字で示し、確認できる形にしたり、多くの物をいくつかにまとめることで、記憶への負担を少なくすることができる。目的地を特徴づけることは検索を助け、見える形にすることは思い出す作業を確認する作業へ変えている。配置を変えないことは、残された記憶を活用し日常生活を継続するのを助けている。設備などで、記憶を必要とする行為の一部を置き換えたり、安全対策を行うことも重要である。さらに、手がかりを選び、時間的・空間的な文脈をわかりやすくすることで、過去の出来事を現在につなげ、痴呆性高齢者がこれまでの経験を活かしつつ、新たに生活を展開していくことを助けることが考えられる。③居住環境の記憶補助機能が痴呆性高齢者以外の多くの人々に果たす役割や、まちづくりについては、今後の課題である。

横浜国立大学, 平成12年3月23日, 博士(工学), 甲第388号

目次

  1. 論文要旨 / 要旨1 / (0003.jp2)
  2. 目次 / (0004.jp2)
  3. 序論 / p1 (0005.jp2)
  4. 1.痴呆性高齢者の記憶障害特性と居住環境の補助機能 / p1 (0005.jp2)
  5. 2.記憶補助に関する既往研究と本研究の位置づけ / p3 (0006.jp2)
  6. 3.目的と研究課題 / p6 (0008.jp2)
  7. 4.方法 / p7 (0008.jp2)
  8. 5.各章の位置づけ / p7 (0008.jp2)
  9. 本論 / p10 (0010.jp2)
  10. 第1章 高齢者及び介護者による記憶補助の手法と有効性 / p10 (0010.jp2)
  11. 1.1 目的 / p10 (0010.jp2)
  12. 1.2 調査概要 / p10 (0010.jp2)
  13. 1.3 物忘れを補う工夫 / p13 (0011.jp2)
  14. 1.4 補われている記憶内容と工夫の移動性 / p23 (0016.jp2)
  15. 1.5 記憶障害の重症度別の傾向-記憶補助機能を高める手法 / p28 (0019.jp2)
  16. 第2章 想起された出来事の文脈と手がかり使用の傾向 / p35 (0022.jp2)
  17. 2.1 目的 / p35 (0022.jp2)
  18. 2.2 調査概要 / p35 (0022.jp2)
  19. 2.3 手がかりと想起内容 / p39 (0024.jp2)
  20. 2.4 出来事相互の関連性と現在とのつながり / p49 (0029.jp2)
  21. 2.5 記憶障害の重症度別の傾向-出来事を想起させる環境 / p54 (0032.jp2)
  22. 第3章 過去の習慣による乗っ取り型エラーにおける状況の類似性 / p59 (0034.jp2)
  23. 3.1 目的 / p59 (0034.jp2)
  24. 3.2 調査概要 / p59 (0034.jp2)
  25. 3.3 間違いの種類と起序 / p61 (0035.jp2)
  26. 3.4 状況の類似性・習慣変更との関係 / p76 (0043.jp2)
  27. 3.5 記憶障害の重症度別の傾向-エラーを制御する環境 / p97 (0053.jp2)
  28. 結論 / p100 (0055.jp2)
  29. 1.各章の要約 / p100 (0055.jp2)
  30. 2.居住環境の記憶補助機能 / p102 (0056.jp2)
  31. 3.補助環境構築の方向性 / p105 (0057.jp2)
  32. 4.今後の課題-ユニバーサルデザインに向けて / p107 (0058.jp2)
4アクセス

各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000189050
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000189333
  • DOI(NDL)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000353364
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
    • NDLデジタルコレクション
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