含酸素有機化合物の反応におけるトリメチルシリルトリフラートの有用性
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著者
書誌事項
- タイトル
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含酸素有機化合物の反応におけるトリメチルシリルトリフラートの有用性
- 著者名
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村田, 静昭
- 著者別名
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ムラタ, シズアキ
- 学位授与大学
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名古屋大学
- 取得学位
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理学博士
- 学位授与番号
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甲第1438号
- 学位授与年月日
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1981-10-01
注記・抄録
博士論文
トリメチルシリルトリフラートは、超強酸トリフルオロメタンスルホン酸のトリメチルシリルエステルである。そのケイ素原子は、顕著な電子欠損性を示しており、含酸素官能基に対して強力な親電子剤として作用する。さらにそのケイ素化合物は、他のLewis酸と異なりキレート配位しないという特徴を有している。著者は、このような点に着目して、酸素原子に対するトリメチルシリルトリフラートの親電子的作用を機軸とする以下のような諸反応を研究した。オキシランに等量のトリメチルシリルトリフラートを作用させると、カチオン的に誘起された三員環の環境が起こる。開環の経路は、基質オキシランの構造・置換様式ならびに反応条件の影響を受け、アリルトリメチルシリルエーテルまたはカルボニル化合物への高立体選択的および官能基選択的変換、または隣接基関与にもとづく環化および転位反応、さらには脱酸素反応と多様な変換がそれぞれ高選択的に進行する。スルフィニル基の活性化に応用すると、ペナム骨格(ペニシリン類)からセフェム骨格(セファロスポリン)へのβーラクタム抗生物質の骨格変換が可能である。トリメチルシリルトリフラートは、含酸素基質に対する求核的反応を触媒する。基質となる含酸素有機化合物として、第3級アルキルエステル、第三級アルキルエーテル、カルボニル化合物、およびアセタールなどを用い、求核剤として、トリメチルシリル基を有するアルコキシシラン、シアノシラン、およびエノールシリルエーテルを使用することができる。このような親電子剤と求核剤とを組み合わせて、トリフェニルメチル化、カルボニル化合物のシアンヒドリントリメチルシリルエーテル化、およびアセタールとエノールシリルエーテルとのアルドール型縮合を効率よく実現することができる。アルドール型縮合では、出発原料の立体化学に依存せずに常にエリトロ体が立体選択的に得られる。この立体選択性の発現機構は、従来知られていなかった非環状延伸型遷移状態経由であることを明らかにした。トリメチルシリルトリフラートの実用性(暗呈せ・取り扱い性)を向上させる目的で、超強酸性樹脂をトリメチルシリルエステル化し、Nation-YMSと称する樹脂を合成した。これは、強力な固体のトリメチルシリル化剤として作用するだけでなく、トリメチルシリルトリフラートで触媒される種々の反応を同様に触媒することができる。本研究によって、トリメチルシリルトリフラートを用いる含酸素有機化合物の変換反応は、有機合成化学の分野で求められている様々な要求にかなった方法であり、実用的な新しい合成手段として有用であることが示された。
名古屋大学博士学位論文 学位の種類:理学博士 (課程) 学位授与年月日:昭和56年10月1日