隣接する二つの時間間隔の知覚に関する研究 Perception of two neighboring empty time intervals

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著者

    • 宮内, 良太 ミヤウチ, リョウタ

書誌事項

タイトル

隣接する二つの時間間隔の知覚に関する研究

タイトル別名

Perception of two neighboring empty time intervals

著者名

宮内, 良太

著者別名

ミヤウチ, リョウタ

学位授与大学

九州大学

取得学位

博士 (芸術工学)

学位授与番号

甲第7395号

学位授与年月日

2005-03-25

注記・抄録

博士論文

本論文では,隣接する二つの時間間隔がどのように知覚されているのかに関する研究の成果を報告する。先行研究において,二つの時間間隔を隣接させて呈示した場合には,時間縮小錯覚が生じることが示されている。時間縮小錯覚とは,時間間隔の長さを処理するために必要な処理時間の一部が省略されるために後の時間間隔が著しく過小評価される現象である。その結果,隣接する二つの時間間隔の主観的等価値が近づいており,時間縮小錯覚は同化の一種であると解釈できる。しかし,先行研究の結果を詳細に観察すると,時間縮小錯覚の生じる時間条件以外でも,時間間隔の主観的等価値が近づく傾向が見られる。特に,これまでの研究ではあまり注目されていなかった先行する時間間隔にも系統的な過大評価や過小評価が生じる可能性がある。そこで,本論文では,隣接する二つの時間間隔に生じる知覚現象を詳細に調べることで,時間縮小錯覚とは異なる同化が生じていることを明らかにした。  まず,隣接する二つの時間間隔の物理的な長さが1:1でないにもかかわらず,主観的にはほぼ1:1と感じられるような時間条件が存在することを確かめた(第2章)。実験では,隣接する二つの時間間隔t1とt2を呈示し,刺激パターンから感じられる比率を,数比や線分間の距離の比率を用いて測定した(実験1と実験3)。その結果から,1:1カテゴリが存在することが分かった。この1:1カテゴリのカテゴリ境界を客観的な統計手法から導きだすために,時間条件間の非類似度を測定する実験を行った(実験4)。得られた非類似度行列をクラスタ分析によって分析すると,-80ms<=t1-t2<=60msを満たす時間条件が一つのクラスタを形成していることが分かった。このクラスタに含まれる時間条件は,比率判断の実験でほぼ1:1であると感じられていた時間条件と対応しており,1:1カテゴリの存在を統計的にも示すことができた。この1:1カテゴリは,時間縮小錯覚の知覚モデルを用いることで,その知覚過程をおおまかに説明することができる。ただし,このモデルのみでは,15<t1-t2<=60msの時間条件が1:1カテゴリに含まれる現象を説明できない。隣接する二つの時間間隔を知覚する際には,時間縮小錯覚とは異なる知覚現象も生じている可能性がある。  そこで,1:1カテゴリの成立過程を詳細にまで明らかとするために,隣接する二つの時間間隔t1とt2それぞれの主観的等価値を測定する実験を行い,多くの定量的なデータを集めた(第3章)。その結果を分析すると,t1にも有意な過大評価や過小評価が生じることが分かった(実験5と実験6)。t1に生じる過大評価や過小評価とt2に生じる過大評価や過小評価との関係を観察すると,-80<=t1-t2<=40msを満たす時間条件で,お互いの主観的等価値が近づく方向に錯覚が生じていることが分かった。つまり,二つの時間間隔に双方向の同化が生じていることが示された。先行研究では,時間間隔の同化はt2にのみ生じるとされており,双方向の同化は,本研究において新しく発見された知覚現象であるといえる。さらに,同化の生じる範囲外の時間条件では,お互いの主観的な長さの差を強調する方向に錯覚が生じていた(実験7)。これは,隣接する二つの時間間隔に対比が生じていることを示している。同化から対比へと知覚が転換する条件は,第2章で示された1:1カテゴリの境界とほぼ一致している。よって,1:1カテゴリの形成には,時間縮小錯覚だけでなく,双方向の同化や対比による主観的な長さの変化も影響していることが分かった。  最後に,実験の結果から隣接する二つの時間間隔の知覚過程について考察した(第4章)。隣接する時間間隔を知覚する際には,まず,時間縮小錯覚によってt2が過小評価される。これは,時間パターンを知覚する早期の段階で生じる処理だと考えられる。その後,より高次の処理段階において,t1の長さと時間縮小錯覚によって過小評価されたt2の長さとを比較し,この二つの長さの間に等時性が判断された場合には,双方向の同化が生じるという仮説を提案した。この仮説は,t1に生じた現象をうまく説明することができた。  聴覚システムは,音列パターンをリアルタイムで解析し,複数の時間間隔から知覚的な枠組みを見つけ出し,音列パターンを即時に体制化することができる。このような処理過程は,非常に複雑であり,処理速度の高速なコンピュータをもってしてもリアルタイムで音を解析処理することは困難な作業である。処理速度の劣る聴覚システムが,このような処理を可能とするためには,どこかで音列から得られる情報を簡易化し,処理にかかる負担を節約する必要がある。物理的には連続的に変化する時間条件を,同化や対比によってカテゴリ化することで,隣接する時間間隔の等時性の判定にかかる処理を簡易化していると解釈すれば,双方向の同化は,このような聴覚システムにおける処理過程を示す新しい手がかりの一つであるといえよう。

目次 第1章 序論 第2章 分割時間の知覚 第3章 隣接する二つの時間間隔に生じる同化と対比 第4章 双方向の同化が生じるメカニズム 第5章 まとめ 引用文献 謝辞

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500002232302
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000002796979
  • DOI(JaLC)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000007903396
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
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