放線菌のA-ファクター制御カスケードを構成する主要因子群の解析

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著者

    • 加藤, 淳也 カトウ, ジュンヤ

書誌事項

タイトル

放線菌のA-ファクター制御カスケードを構成する主要因子群の解析

著者名

加藤, 淳也

著者別名

カトウ, ジュンヤ

学位授与大学

東京大学

取得学位

博士 (農学)

学位授与番号

甲第21259号

学位授与年月日

2006-03-23

注記・抄録

博士論文

背景放線菌は抗生物質をはじめとする多種多様な二次代謝産物を生産することで知られ、産業上有用な微生物である。一方、放線菌は原核生物でありながら複雑な形態分化(胞子発芽-基底菌糸形成-気中菌糸形成-胞子形成)を行うことから基礎生物学的にも非常に興味深い研究対象となっている。また、放線菌は形態分化の過程で、不足した栄養を補うため菌糸を積極的に分解しながら分化を進めていくことが示唆されており、原核生物のアポトーシスとも呼ばれる現象は形態分化に関する興味深いトピックの1つである。本研究で主として扱うstreptomyces griseusは、放線菌の二大特徴である二次代謝と形態分化を自身の生産する微生物ホルモン、A-ファクターにより制御している。A-ファクターはγ-ブチロラクトン骨格をもつ低分子化合物であるが、他の放線菌においても同じ骨格を持つ類似の化合物が発見され、それらが自身の二次代謝を制御していることが明らかになっており、このような制御機構は放線菌に広く存在するものである。A-ファクターのシグナル伝達機構は次のようになっている(図参照、本研究で明らかになった箇所も含む)。生育が進みA-ファクター濃度が閾値に達すると、A-ファクターはその特異的受容体であるArpAと結合する。ArpAは転写抑制因子であり、その下流にあるadpAのプロモーターに結合することで。adpAの転写を抑制しているが、A-ファクターとの結合によりDNA結合能を失いプロモーターから解離し、adpAの転写が開始する。AdpAは転写活性化因子であり、気中菌糸形成、胞子形成、二次代謝に関与する多数の遺伝子群の転写を活性化する。本研究では、このA-ファクター制御カスケードのシグナル伝達機構およびそれに制御される遺伝子群の解明を目的として、いくつかのステップについて遺伝生化学的な解析を進めた。結果本研究は大きく以下の3つに分けられる。A-ファクターにより制御される分泌型プロテアーゼの解析分泌型金属プロテアーゼをコードするsgmAの取得と解析「AdpAレギュロン」を構成する遺伝子はこれまで多数解析されている1)。筆者は修士課程において、AdpA標的遺伝子であり形態分化に関わる分泌型金属プロテアーゼをコードするsgmAの単離・解析を行った2)。分泌プロテアーゼは菌糸分解による放線菌のアポトーシスに関与すると考えられているが、このような遺伝生化学的な研究のさきがけとなった。分泌型トリプシン型プロテアーゼをコードするsprTとsprUの取得と解析3)sgmAの研究からアポトーシスに関与する他の分泌プロテアーゼもAdpAにより制御されているのではないかと予想した。データベース上に分泌型トリプシン型プロテアーゼをコードするsprTを見いだし、その上流へのAdpA結合および転写依存性を調べたところ、上流1カ所(-50位周辺、転写開始点を+1とする)にAdpAが結合することで転写活性化されることが明らかになり、種々の変異体を作製することにより直接的な転写活性化も証明した。また、解析の過程でsprTのパラログであるsprUを発見し、これについてもAdpAの結合による直接的転写活性化を明らかにした。これらの遺伝子の生理機能を探るため遺伝子破壊株を作製し解析したが、細胞外トリプシン活性の著しい低下以外には野生株との表現型の差は見られなかった。プロテアーゼ阻害蛋白質(SSI)をコードするsgiAの取得と解析以上のように、多数の分泌型プロテアーゼがAdpAにより転写活性化されることが明らかになったが、プロテアーゼの形態分化への関与は確認できなかった。そこで、逆に放線菌自身が生産するプロテアーゼ阻害蛋白質について解析を行うことで形態分化との関連を調べることにした。研究開始当初、ゲノム情報が明らかになっていたStreptomyces coelicolor A3(2)のSSIファミリー阻害蛋白質の遺伝子破壊株を作製し解析したが、プロテアーゼ活性の劇的な上昇はみられたものの形態分化への影響は見られなかった4)。一方、醗酵学研究室で独自に推進したS.griseusのゲノム解析も進み、SSIファミリー阻害蛋白質をコードするsgiAを染色体上に見いだした。転写解析の結果、予想外にsgiAはAdpAによって直接転写活性化されることが明らかになった。AdpAによって活性化されるプロテアーゼの活性を阻害する蛋白質もまたAdpAにより発現制御されるという点は非常に興味深く、現在醗酵学研究室でさらに解析が進められている。ArpAのA-ファクター結合変異体の解析5)ArpAの119番目のトリプトファンはA-ファクター結合に必須のアミノ酸残基であり、またin vitro解析によりアラニン置換(W119A)変異体はDNA結合能を保持したままA-ファクター結合能を失うことが判明していた。この変異を染色体に導入した変異株(MK2株)は、予想通りA-ファクター非感受性となり、二次代謝と形態分化が抑制されることを確認した。さらに、MK2株でAdpAを強制発現し、 A-ファクターカスケードのAdpAより下流の経路のみを活性化させたところ、二次代謝と形態分化の表現型は全て回復した。それまでArpAの標的遺伝子はadpA以外明らかになっていなかったが、この解析により二次代謝と形態分化に必要なArpAの標的遺伝子はAdpAただ一つであることが明らかになった。同時にarpA遺伝子破壊株の作製とその解析も行い、それまでin vitroで示されていたArpAの機能をin vivoで確認した。また、各種変異株のA-ファクター生産量を定量したところ、ArpAはA-ファクターの生産に関与しないことが明らかになった一方で、AdpAが何らかの形でA-ファクター生産を負に制御していることが明らかになった。AdpAの自己転写抑制機構の解析6)adpA遺伝子破壊株ではadpAの転写量が野生株に比べて顕著に増加していた。そこで、AdpAは自身の転写に対しては抑制的に働くことで、細胞内AdpA濃度を厳密に制御しているのではないかと考え、解析を行った。その結果、AdpAは自身の遺伝子上流3カ所、site1(-100位周辺)、site2(プロモーター直上)、site3(+80位周辺)に結合することで自身の転写を抑制することをin vitroとin vivo両方の実験により示した。さらにsite2にはsite1にAdpAが結合する場合のみAdpAが結合し、おそらくDNAループを形成するような相互作用を行うことで厳密な抑制を可能にしているという、大変興味深い仕組みを明らかにした。site3への結合はRNAポリメラーゼの進行を妨げることで転写を阻害すると考えられる。様々な遺伝子の転写に影響を及ぼし、形態分化と二次代謝を制御するAdpAの発現量はこの機構により厳密に調節されていることが明らかとなった。総括S. griseusの栄養増殖には関与しないトリプシン型およびキモトリプシン型プロテアーゼは、A-ファクター制御カスケード内のAdpAレギュロンの構成員であることを明らかにした。今後は、S. griseusのゲノム情報に基づいた研究により、AdpAを介して広がるカスケード下流の構成因子の数をさらに増やすことができると考えられる。その中では、本研究のプロテアーゼと阻害蛋白質の間の調節のようにAdpA標的間での相互作用も見いだされるであろう。A-ファクターシグナルを伝達するArpAはadpAのみを制御し、二次代謝と形態分化を支配する。そしてカスケードの鍵となるAdpAは自身の転写抑制を行うことでシグナル伝達の調節を行っており、カスケード的に連なる主要因子群の厳密な調節ネットワークが明らかになってきた。本論文ではふれていないA-ファクターの生合成機構は重要なポイントであり、現在解析中であるが、これが明らかになればカスケードの起点への理解を深めるにあたり大きな一歩となる。

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000358046
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000359178
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000008479571
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL-OPAC
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