Mechanisms of 5-azacytidine-induced toxicity and repair system in the developing fetal brain 胎仔中枢神経系における5-Azacytidineによる毒性発現および修復機構に関する研究

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著者

    • 上野, 将紀 ウエノ, マサキ

書誌事項

タイトル

Mechanisms of 5-azacytidine-induced toxicity and repair system in the developing fetal brain

タイトル別名

胎仔中枢神経系における5-Azacytidineによる毒性発現および修復機構に関する研究

著者名

上野, 将紀

著者別名

ウエノ, マサキ

学位授与大学

東京大学

取得学位

博士 (獣医学)

学位授与番号

甲第21330号

学位授与年月日

2006-03-23

注記・抄録

博士論文

胎児中枢神経系は広範囲の環境因子に対して感受性が高く、母体に暴露された環境化学物質が脳発生に重大な影響を及ぼす危険性を秘めている。脳発生期には、神経系細胞が複雑な制御により増殖・移動・分化といった過程を経て中枢神経系を構築していくため、外的因子による修飾・障害を受けやすい環境にある。また、他臓器に比べはるかに長い器官形成期を有しているため外因性の刺激にさらされる可能性が高く、環境因子に対して感受性が高い一因となっている。胎児脳に障害を及ぼす可能性のある物質は増加の一途を辿っていると考えられるが、現在のところ、胎児中枢神経毒性の発現機構に関する詳細な研究は未だごく少ないのが現状である。5-Azacytidine (5AzC) はcytidineのアナログで、DNAメチル化の阻害(脱メチル化)あるいはDNA傷害を引き起こす化学物質である。5AzCを妊娠ラットやマウスに投与すると、胎仔中枢神経系に毒性を示し、新生仔に脳奇形が生じることが知られており、その原因としてアポトーシスの関与が示唆されている。本研究では、5AzC暴露による胎仔中枢神経毒性モデルを作出し、胎仔中枢神経毒性の発現機構および傷害後の修復機構を明らかにする目的で、種々の観点から解析を行った。論文は下記の3章から成る。(第1章)胎仔脳における5AzCによる毒性発現:細胞死と細胞周期停止妊娠13日目のラットに5AzC (10mg/kg) を腹腔内投与し、1から24時間後にかけて胎仔を採取し、胎仔中枢神経系における病理組織学的変化を経時的に検索した。その結果、投与後9時間目に胎仔神経上皮(ventricular zone (VZ))内にTUNELおよび活性型caspase-3陽性アポトーシス細胞が出現し、12時間目にその数はピークに達した。また6時間目には、脳室に沿ってVZに多数の分裂細胞の集簇が観察された。分裂細胞は電顕的に多様性を示し、明らかに異常分裂像と考えられるものも認められた。また5-bromo-2'-deoxyuridine (BrdU) を用いS期細胞数を計測したところ、12時間目に投与群で顕著な減少が観察され、S期以前に細胞周期停止が引き起こされていることが示唆された。これらの変化は中枢神経系の多くの部位で同様だったことから、以後の検索は終脳を中心に行った。次に、細胞周期の変化が示唆されたことから、Flow cytometryを用い、終脳神経系前駆細胞(neural progenitor cell)の細胞周期変動を検索したところ、6?9時間目にG2/M期細胞の増数が観察された。上記の組織学的検索では、分裂細胞数は6時間目に増加しその後減少したことから、6時間目にはM期での停止、9時間目にはG2期での停止が引き起こされると考えられた。VZでは、細胞周期と神経系前駆細胞の核移動には密接な関係があることが知られている(interkinetic nuclear migration)。すなわち、核は細胞周期に依存して上下に移動を繰り返し、VZの外側部でDNA合成を行い、脳室沿いで分裂する。そこで、BrdUを5AzCと同時に投与し、BrdU陽性細胞の細胞周期内での推移およびVZでの核移動の推移を経時的に観察した。その結果、BrdU陽性細胞は6?9時間目にG2/M期で停滞し、それに伴ってVZにおいて内側への核移動の阻害が観察された。また、一部の細胞はG0/G1期に推移し、脳室側から外側へと核移動しており、その後アポトーシスに至ると推測された。そこで、Flow cytometryを用いてどの細胞周期でアポトーシスが起こっているのかを検索したところ、主にG0/G1期で細胞死に至ることが確認された。(第2章)胎仔脳における5AzCによる毒性発現の分子機構第1章で見られた5AzCによるアポトーシスおよび細胞周期停止の分子機構を探るため、胎仔終脳を用いてDNA microarray解析を行った。その結果、ゲノムの守護神と呼ばれるp53の転写標的因子やG2/M期制御因子の発現変動が観察された。そこで、免疫染色、Western blotting、RT-PCRを用い、p53およびその転写標的因子であるp21, bax, cyclin G1, fasおよびgadd45について発現の経時的変化を検索した。その結果、TUNEL陽性アポトーシス細胞の発現のピークが12時間目であったのに対し、p53陽性細胞のそれは9時間目、およびp21陽性細胞のそれは12時間目であり、これら3者は同一の部位で観察された。さらに、RT-PCRによる検索では、対照群と比べ、p21 (9~24時間目)、bax (12時間目)、cyclin G1 (9~24時間目)、およびfas (9~12時間目)の発現が顕著に上昇した。これらの結果から、5AzCによるアポトーシス・細胞周期停止の発現にp53の関与が強く示唆された。そこで、妊娠12日目のp53ノックアウトマウスに5AzCを投与し解析したところ、p53-/-胎仔脳でのみアポトーシスが観察されなかった。一方、G2/M期細胞の増加はいずれの遺伝子型(p53+/+、+/-、-/-) でも観察された。以上のことから、5AzCはDNAに傷害を引き起こし、p53を介してアポトーシスを誘導するが、G2/M期の制御には別の機序が存在することが示唆された。そこで、G2/M期制御因子(Chk2、cyclin B1、Cdc2)に着目し、Western blottingを行った。その結果、リン酸化Cdc2(不活性型)の減少およびcyclin B1の増加が観察された。このことは、G2期からM期への過剰な流入が起こり、その結果異常なM期細胞の増加につながったことを示唆している。また、一部のアポトーシスは、分裂異常により引き起こされる細胞死であるMitotic catastropheに分類される可能性が示唆された。本章の結果から、5AzCはDNA傷害を介して胎仔中枢神経毒性を発揮するものと考えられた。しかし、5AzCの脱メチル化作用が関与する可能性も残されており、更なる解析が必要と考えられた。(第3章)5AzCによる胎仔脳傷害後の修復機構胎児中枢神経毒性に関する研究分野では、外因性刺激による傷害および出生仔における異常といった現象に関して、比較的多くの報告がなされている。しかし、傷害を受けた発生期と奇形などの異常が明らかとなる出生期の橋渡しを担う時期における現象に関しては着目されることが少なく、その期間何が起こっているのか未だ不明な点が多い。本章では、胎仔脳傷害後に起こると考えられる胎仔脳組織の修復過程に着目し、研究を行った。妊娠13日目のラットに5AzC (10mg/kg) を腹腔内投与し、24、36、48、60時間後にかけて胎仔を採取し、各種解析を行った。組織学的検索では、アポトーシス細胞は 投与60時間目には観察されなくなり、また、Flow cytometryを用いた増殖動態の検索では60時間目にほぼコントロール群と同様の状態に回復した。従って、投与60時間目には組織修復がほぼ完了し、発生が継続していくと考えられた。しかしながら、投与群では終脳壁のひ薄化が観察され、こうした変化が出生後に見られる小脳症や各種の中枢神経障害に結びつくと考えられた。修復期(投与24?60時間)にはIba-1、ED-1、CD11b、BS-Iといった各種のミクログリアマーカーに陽性像を示すミクログリアの浸潤および増数が観察された。胎仔脳に常在するミクログリアは突起を伸ばした樹状型の形態を示すが、投与群ではアメーバ状の形態に変化し、アポトーシス細胞を貪食する像も多数認められた。また、本研究で用いた胎齢では通常アストログリアの発生は認められないが、5AzC傷害後の修復過程においてもアストログリアの関与は認められなかった。従って、傷害された胎仔脳組織の修復にはミクログリアが主に働くことが示された。次に、DNA microarray解析およびRT-PCRにより修復期に発現変動の見られる遺伝子を検索したところ、TNF-α、IL-1β、M-CSF、Osteopontinといったミクログリアの誘導・活性化に必要とされる遺伝子の発現増加が観察された。また、こうした炎症誘導因子の他、細胞外基質、解糖系酵素、神経発生関連因子の発現変動も観察された。これらの結果から、発生過程にある胎仔脳組織は他の組織と同様に組織傷害に対する応答性を有しており、炎症誘導、組織のリモデリング、傷害組織に対する適応、といった反応を示し得ることが示唆された。本研究から、神経系前駆細胞を中心とした胎仔脳組織は、DNA傷害といった外因性の刺激に対し、多様な細胞周期制御やアポトーシスによる異常細胞の排除を行い、脳発生の恒常性の維持に努めると考えられた。また、細胞死や増殖阻害による組織傷害に対して一定の修復作用を有することが示された。こうした傷害や修復過程の程度により、脳発生の正常?異常が規定されていくと考えられた。近年、脳科学の飛躍的な進展により脳発生メカニズムが次々と明らかにされており、脳発生機序の全貌に対応した胎児中枢神経毒性発現メカニズムの解明・再考が求められている。本研究で用いたようなDNA傷害物質による胎仔中枢神経毒性モデルは、細胞死を中心とした明白な傷害を胎仔脳にもたらし、さらには新生仔に小頭症や水頭症といった脳奇形を引き起こすことから、胎児中枢神経毒性の発現機構の解明を目的とした基礎研究に有用な実験モデルを提供すると考えられる。

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000358341
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000359473
  • 本文言語コード
    • eng
  • NDL書誌ID
    • 000008480957
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL-OPAC
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