イネの金属元素トランスポーターに関する研究

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著者

    • 石丸, 泰寛 イシマル, ヤスヒロ

書誌事項

タイトル

イネの金属元素トランスポーターに関する研究

著者名

石丸, 泰寛

著者別名

イシマル, ヤスヒロ

学位授与大学

東京大学

取得学位

博士 (農学)

学位授与番号

甲第21309号

学位授与年月日

2006-03-23

注記・抄録

博士論文

2005年現在,64億人に達した世界人口は今なお年間7670 万人の割合で急速に増加し続けている。国連の推計では現在から2050年までに約26億人が増加すると見られるが,これは1950年の全世界の人口に匹敵する。しかし,現在ですら人口を支えるだけの食糧の生産は十分とは言えず,世界では,8億人以上が栄養不足に苦しんでいる。今後も不足が予想される食糧の増産をいかに達成するかは,人類にとって重要な問題である。これまでも緑の革命を始めとして単位面積当たりの収穫量を増加させることにより,人口の増加に対応してきた。しかし現在,単位面積当たりの収穫量の増加率は既に頭打ちになってきており,これ以上の収穫量の飛躍的な増加は期待できない。この深刻な食糧問題の有力な解決方法のひとつは耕地面積の拡大である。すなわち,今までは農耕地として利用されていなかった,もしくは利用されていても高い収量を確保出来なかった不良土壌の活用に問題解決の糸口がある。不良土壌の中でも特に,鉄(Fe)欠乏地帯である石灰質アルカリ土壌,あるいは亜鉛(Zn)欠乏地帯は,世界中に広く存在する。よく耕された好気的な土壌ではFeはFe3+ として存在する。半乾燥地域の炭酸カルシウムが高濃度で集積した石灰質アルカリ土壌では,土壌中のpHが高いためにFe3+ の溶解度が低く,植物は十分なFeを吸収できず,Fe欠乏となる。すなわち,Fe欠乏クロロシスを呈し,生長は抑制され,症状が重い場合にはやがて枯死してしまう。このような土壌は世界の耕地面積のおよそ3分の1を占めるため,これらの不良土壌における生産性を改善できれば食糧問題や環境問題の解決に大きく貢献できる。現状では,pH 矯正剤を投与したり,キレートFeを葉面散布したりすることによって,Fe欠乏を回避することが行われている。しかしながら,これらの手法はコストが高く,特に発展途上国では実現不可能であり,根本的な解決にはならない。そこで植物のFe 吸収機構や体内での輸送機構を理解することによって,Fe の吸収能力が高く,また利用効率の高い植物を育種することが重要であると考えられる。Zn欠乏地帯では,土壌中のZnは粘土などの鉱物や有機物に沈着するため,植物が吸収できる土壌溶液中のZnは,土壌中の全Zn量のごく一部でしかなく,還元が進んだ土壌やpHが高いアルカリ土壌では,さらに植物が利用できるZnの量は少なくなる。そのような土壌では,Zn欠乏によって植物の生育は阻害され,Fe欠乏と同様に症状が重い場合にはやがて枯死してしまう。石灰質アルカリ土壌においてもFeを十分に吸収できるような植物,もしくは少ない体内Znを効率よく利用できるような植物,特にイネ科の作物を創製できれば,食糧増産,沙漠の緑化などの様々な問題に対応できる。本研究では,そのようなFe欠乏耐性,Zn欠乏耐性を備えた植物の創製を最終的な目標とし,植物のFe,Zn栄養,特にこれらの金属元素の根圏からの獲得に関する研究を行った。イネの新たなFe吸収機構の解明Fe欠乏を回避するために,非イネ科植物は,土壌中のFe3+ をFe3+ キレート還元酵素によりFe2+ に還元し,Fe2+ トランスポーターによりFeを吸収する。これは,StrategyIと呼ばれるFe 吸収機構である。これに対して,イネ科植物は,ムギネ酸類(MAs)を根から分泌し,Fe3+ をキレートして可溶化し,そのFe3+-MAsを吸収するというStrategyII機構を持っている。イネ科植物であるイネ(Oryza sativa)は,MAsとしてデオキシムギネ酸(DMA)を合成・分泌し, StrategyII機構をもつ。しかしながら,イネは同時にFe2+ トランスポーター OsIRT1を持つことが明らかになっている。本研究では,OsIRT1と非常に相同性の高い遺伝子 OsIRT2 をイネから単離した。定量的 RT-PCR 法により,OsIRT1とOsIRT2は主にFe欠乏条件の根で強く発現が誘導されることを確認した。Fe吸収欠損酵母を用いた相補実験では,OsIRT1またはOsIRT2を発現させることにより,生育の回復がみられた。OsIRT1またはOsIRT2とGreen Fluorescent Protein(GFP)との融合タンパク質をタマネギ(Allium cepa L.)の表皮細胞に一過的に発現させると,これらのタンパク質は細胞膜に局在した。OsIRT1 プロモーター(0.8 kb)をβ-グルクロニターゼ遺伝子(GUS)に連結してイネへ導入し,OsIRT1の発現の組織特異性を解析した。OsIRT1の発現はFe欠乏条件によって誘導され,根端では表皮細胞と外皮細胞で発現し,根の基部に近い部分では内皮細胞に隣接する皮層細胞で発現していた。さらに,根の篩部伴細胞で強く発現が誘導されていた。Positron Emitting Tracer Imaging System法を用いて,イネはFe3+-DMAの吸収に加えFe2+ も吸収することを明らかにした。しかし,Strategy I 植物が示すような,鉄欠乏による根の表面でのFe3+ 還元酵素活性の上昇は,イネでは観察されなかった。以上の結果により,イネはFe3+-DMAを吸収する機構に加え,Fe2+ を直接吸収する独特の機構を持つことを明らかにした。イネのFe2+ 吸収機構は,水田のようにFe2+ が豊富に存在する湛水条件で生育するイネにとって,非常に適していると考えられる。Fe欠乏耐性植物の作製前述のように,イネは Fe3+-DMA の吸収機構に加え Fe2+ の吸収機構を備えていることが明らかになった。しかし,イネはこれらの 2 つの Fe 吸収機構を持っているにも関わらず,他のイネ科植物に比べて,Fe 欠乏条件に弱い。これは,pHの高い条件で Fe欠乏耐性を発揮するために必要なDMAの分泌量が少ないためと,Fe3+ 還元酵素活性がイネでは低いためであると考えられる。そこで,イネの根において Fe3+ 還元酵素活性を上昇させることにより,Fe2+ 吸収を促進し,イネに鉄欠乏耐性を付与できるのではないかと考え,以下の実験を行った。酵母の Fe3+ キレート還元酵素遺伝子である FRE1 を植物での発現に適したコドンの利用率に改変し,さらに PCR 法によるランダムミューテーションの導入により,高 pH 条件でも高い活性を持つように改変した Fe3+ キレート還元酵素遺伝子 refre1/372 をイネに導入した。その際,この遺伝子が鉄欠乏に応答し,根の表皮で発現する,すなわち Fe2+ トランスポーターの発現と同調することが望ましいと考え,プロモーターとして Fe2+ トランスポーター OsIRT1 のプロモーターを用いた。形質転換体では Fe 欠乏条件に応答し,根でrefre1/372の発現誘導が観察された。Fe 欠乏条件下で,形質転換体はベクターコントロールに比べ高い Fe3+ 還元酵素活性を示し,Fe 吸収と蓄積が増大していた。さらに,形質転換体は,石灰質アルカリ土壌において Fe 欠乏耐性を示し,ベクターコントロールに対して約 7.9 倍の収量を示した。イネのZnトランスポーター遺伝子(OsZIP4)の単離と解析イネの新規Znトランスポーター遺伝子を単離,解析した。まず,Fe2+ トランスポーター遺伝子OsIRT1に相同性の高い配列を持つ4つの遺伝子,OsZIP4,OsZIP5,OsZIP6,OsZIP7を単離した。これらのうちOsZIP4がZn欠乏条件の茎葉と根で強く発現が誘導されることを,マイクロアレイ実験とノーザン解析により明らかにした。OsZIP4の導入によりZn吸収欠損酵母(Δzrt1,Δzrt2)のZn欠乏培地における生育が回復したことから,OsZIP4はZnを輸送することが示された。定量的RT-PCRの結果,Zn欠乏条件でのOsZIP4の転写産物の量は,以前イネのZnトランスポーターとして報告されたOsZIP1やOsZIP3の転写産物量の1000倍以上であった。OsZIP4-GFP融合タンパク質を,タマネギの表皮細胞に一過的に発現させたところ,細胞膜に局在した。In situハイブリダイゼーション法により,OsZIP4の発現部位を解析した。OsZIP4は,篩部細胞や分裂組織で顕著に発現していた。また、OsZIP4はZn欠乏条件の葉肉細胞でも強く発現していた。これらの結果により,OsZIP4は,イネの体内のZn輸送と転流に関わるZnトランスポーターであることが示された。

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000358434
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000359567
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000008481141
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL-OPAC
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