第一次世界大戦期における米国プロパガンダ・ポスター研究 : その説得の心理過程とレトリックおよび社会的文脈についての考察 第一次世界大戦期における米国プロパガンダ、ポスター研究 : その説得の心理過程とレトリックおよび社会的文脈についての考察 Studies on WWI Propaganda Posters in the United States
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第一次世界大戦期における米国プロパガンダ・ポスター研究 : その説得の心理過程とレトリックおよび社会的文脈についての考察
- タイトル別名
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第一次世界大戦期における米国プロパガンダ、ポスター研究 : その説得の心理過程とレトリックおよび社会的文脈についての考察
- タイトル別名
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Studies on WWI Propaganda Posters in the United States
- 著者名
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土田, 泰子
- 著者別名
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ツチダ, ヤスコ
- 学位授与大学
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新潟大学
- 取得学位
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博士 (学術)
- 学位授与番号
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甲第2808号
- 学位授与年月日
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2007-03-22
注記・抄録
博士論文
第一次世界大戦期に制作されたプロパガンダ・ポスターについて、ポスターによる宣伝と説得の構造と手法を明らかにすることを目標とした本論文では、ポスターを見る者が行動に至るまでの心理過程に着目し、プロパガンダ・ポスターに独自の構造と表現形式を解明することを試みている。本論文で研究課題としている第一次世界大戦では、参戦した各国で国民に対し募兵や募債、節約や供出などを訴えるポスターが制作された。19 世紀末に発達した石版印刷によるポスターは、20 世紀には商業宣伝のためのメディアとして興隆期を迎え、放送メディアに先駆けた、不特定多数の人々に働きかける、始祖的なマス・メディアの媒体として機能していた。戦争への協力を促すことを目的として制作されたポスターは、戦争の正当性を訴えて参戦を理解させ、募兵や募債を要請し、節約と増産を訴えた。戦場で懸命に戦う兵士の姿を描き、食糧援助の必要性を説いた。連合国のポスターでは敵国であるドイツの兵を残虐な怪物として描くことで憎悪させた。図像イメージと文字メッセージによって構成されるポスターは、瞬間のメディアである。映画や新聞、ラジオなどと比較しても、ポスターが見る者に対して働きかける時間は圧倒的に少ない。宣伝は、見る者がポスターを目にしてからその場を立ち去るまでのわずかの間に達成されなければならない。そのために、一瞬で認識できるような短く簡潔なキャッチ・コピーや、通行人の目を引くようなイラストレーションの使用などの工夫が行なわれた。戦時政策に連動して次々と新しいポスターが制作され、商業広告や雑誌のイラストレーションで人気のイラストレーターが作品を提供した。特にアメリカは参戦と同時に政府広報委員会(the Committee of Public Information)を設置し、戦時宣伝が組織的に展開する中でポスターを重要な媒体として位置付け、広報委員会の中にポスターによる宣伝を専門に行なう絵画広報部(the Division of PictorialPublicity)を設けた。本論文では、プロパガンダ・ポスターにおける視覚表現を、ポスターを見る者の心理過程と連動させて分析することで、ポスターによる説得の構造とレトリックを明らかにした。プロパガンダ・ポスターを見る者の心理過程を分析し、説得的な働きかけを行なうための表現手法だけでなく、ポスター外の要素がポスターを解釈する上でどのように影響するのかという点を踏まえた、初めての総括的な研究であると言える。この解明のために多数のポスター資料およびプロパガンダ・ポスターに関する研究だけでなく、戦時宣伝、視覚表現、認知心理に関する先行研究を検討している。戦時において宣伝は、戦略の重要な要素として国内と国外の両者に対して行なわれる。戦争宣伝に用いられるプロパガンダ・ポスターは、商業的な宣伝を目的として制作されるポスターとは異なる機能を要求される。商業ポスターは商品を他のイメージと組み合わせることで付加価値を持たせ、他の商品との差異を作り出す。
商品を所有することが消費者自身の価値を高めることにつながると考えさせて購買を促す。あるいはその商品を購入することで何らかの利益が得られると思わせることで欲求を引き出す。これに対して戦時プロパガンダ・ポスターは視覚的な要素であるイメージ、色彩、文字、メッセージのすべてを意図的に組み合わせることで好意や親近感、嫌悪感、憎悪などの感情を見る者に反射的に抱かせる。企業が宣伝のために制作する商業ポスターは、消費者に商品への興味を持たせ、消費者が商品を欲するように導くことを目的に制作される。これに対してプロパガンダ・ポスターは、見る者が反射的に抱く感情を利用して説得を行い、宣伝制作者が意図するような考え方を見る者が持つように導くことを目的に制作される。二者の間には「消費者に欲求を起こさせる」と「感情を喚起して行動へ導く」という点が異なっている。このようなプロパガンダ・ポスターによる働きかけは、(1)「注目(Attention)」、(2)「感情(Emotion)」、(3)「説得(Conviction)」、(4)「記憶(Memory)」、(5)「行動(Action)」の過程で実行されることが導き出された。この心理過程はAECMAモデルとして単純化される。ポスターにおいて様々な要素を視覚化し、見る者の感情を喚起することを可能にしたのは、抽象概念を具体的な物事と関連させて描き出すことのできるイラストレーションの功績であった。プロパガンダ・ポスターは、見る者が図像に対して、あるいはフレーズに対して、反射的に抱く感情を利用するメディアである。ポスターは見る者の経験や知識を引き出すだけでなく、見る者が無意識的に抱く信頼や好意、嫌悪などの感情までも利用する。本論文では独自に導き出したAECMAモデルを用い、見る者の心理を誘導するためにどのような表現手法が用いられているのかを分析している。キャッチ・コピーは見る者の視線を引き寄せ、一目見ただけでメッセージを伝えるために、選び抜かれた短い言葉で語りかける。読ませるのではなく印象付けることで見る者の記憶に焼き付き、メッセージは反復されて浸透する。イラストレーションはあらゆる概念をイメージ化し、様々な場面を描き出すことで人々の連想を操作し、感情を喚起し、判断を方向付けている。構図上の工夫は見る者の視線を誘導し、文字メッセージと図像イメージを連動させて認識させることに貢献した。比喩表現は言葉とイメージに新しい結び付きをもたらし、さらにその結び付きはポスター外の要素と連動して新しい意味を作り出した。戦争と家庭菜園が結び付けられ、毎日の生活の中で行う節約や食生活の工夫を、戦時協力であると認識させた。ポスターの中で繰り返し用いられた国旗のイメージや「自由」「勝利」という言葉は、人々の愛国心や戦意を高めるための起動装置として機能することになった。色彩はポスターの表現によって引き起こされた感情を増幅させる役割を果たしていた。
ポスターの中で記号化したイメージは、見る者の反射的な感情を喚起する役割を果たし、文字メッセージと連動して見る者の判断を方向付けることによってポスターをプロパガンダ・メディアとして機能させているのである。制作者によって組み合わせて配置された要素は、見る者が既に持っている知的背景と連動して新しい結び付きを作り出し、見る者はその場を通じてポスターのメッセージを認識する。ポスターを目にして、その前を立ち去るまでの、その僅かな時間で人々を宣伝者の意図する行動へと導くために、イメージやメッセージに対して見る者が反射的に抱く感情を利用して瞬間的に、無意識のうちに宣伝者の意図する行動を取るように判断を方向づける工夫が成されたのだった。プロパガンダ・ポスターを分析する上で最大の困難となったのは、ポスターの文脈ともいえる情報の欠落である。第一次世界大戦期に制作された各国のポスターを解読するためには、ポスター上に示されている内容に加え、社会的あるいは文化的、歴史的背景を明らかにすることが求められた。制作者や制作意図、依頼者などを明らかにし、当時の事件や戦時政策と連動させて分析することで、それらの文脈に相当する部分がポスター上の表現を拡張していることも明らかとなった。プロパガンダ・ポスターは商業的なポスターとは異なる働きかけを行うことで、見る者を誘導している。そのことに見る者が気付かないよう、見る者がポスターの発するメッセージを自然に受け入れるように、一見すると商業ポスターに近い表現が用いられている。しかしこの両者の間の違いに気付くことがプロパガンダ・ポスターの構造を分析し、本質を明らかにする上では不可欠である。プロパガンダ・ポスターの特異性は制作された目的と、見る者にもたらされる心理過程に加え、そのポスターが制作された当時における背景的な事情が文脈となって解釈に影響していることにある。ポスターの持つ歴史的背景や社会状況の考察がポスターを読み解く上での最後の鍵となり、これまでに論じてきた心理過程やレトリックと連動することで、ポスターをプロパガンダ・メディアとして成立させているのである。戦時宣伝になぜポスターが用いられたのか(第1章)、戦時ポスターによるプロパガンダは見る者をどのように導くのか(第2章)、見る者はポスターをどう解釈するのか(第3章)、背景的な事情はポスターの解釈にどのように影響するのか(第4章)という考察を踏まえて、プロパガンダ・ポスターにおける視覚表現の構造と機能についての総合的な検証が、本論文では行われている。分析するポスターはすべてフルカラーで収録し、巻末に制作年、制作者、サイズ、出典を付した。
新大院博(学)甲第55号