Nodal/Cripto系によるマウス胚性腫瘍細胞P19の中胚葉分化関連遺伝子の発現制御に関する研究

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著者

    • 中谷, 航平 ナカヤ, コウヘイ

書誌事項

タイトル

Nodal/Cripto系によるマウス胚性腫瘍細胞P19の中胚葉分化関連遺伝子の発現制御に関する研究

著者名

中谷, 航平

著者別名

ナカヤ, コウヘイ

学位授与大学

麻布大学

取得学位

博士 (獣医学)

学位授与番号

甲第116号

学位授与年月日

2008-03-15

注記・抄録

博士論文

動物の個体はたった1個の受精卵から発生する。個体が正しく発生するためには細胞増殖と分化が精巧に調節されながら進行しなければならない。受精卵や発生初期の細胞は分化における全能性を有しており、各胚葉の幹細胞に分化した後、多段階の分化過程を経て個体は形成される。細胞の分化制御に関して多くの因子の関与が予想されているが、その詳細は依然として不明である。この複雑な分化制御を明らかにすることは生物学的に重要な課題であるとともに、獣医学領域においても再生医療の基礎的な研究として重要であると考えられる。 近年、分化の制御機構を解明するために多様な細胞への分化能を持つ胚性幹(ES)細胞を用いた研究が増えてきたが、多くのES細胞の培養にはフィーダー細胞や白血病抑制因子(LIF)などの未分化能を維持するための特別な因子が必要であり培養は容易ではない。一方、マウス胚性腫瘍細胞P19(P19細胞)は初期胚の内部細胞塊に類似した性質を持ちES細胞と同様に多能性を持つが、その培養にフィーダー細胞やLIFの添加は不要で扱いやすい細胞である。これまでに、 P19細胞は培養条件によって三胚葉のいずれにも分化させることが可能であることが知られている。本研究では、本細胞を用いて胚の初期の分化制御を研究する過程で、P19細胞の中胚葉への初期分化について新たな事実を見つけ、その分化制御について分子レベルで詳細に解析した。第1章 未分化マーカーを発現するP19細胞における中胚葉マーカーの発現 P19細胞を通常の継代培養条件である6%ウシ胎児血清(FBS)存在下で単層培養すると、未分化マーカーであるNanogとOct-3/4のmRNAの発現がみられ、未分化胚細胞であることが確認できた。また、既報に従って神経細胞への分化誘導条件であるレチノイン酸存在下で凝集塊を形成させたところ、神経細胞様細胞に分化させることができた。しかし、これまでに知られているような分化誘導処理をしていない培養条件においても、初期の中胚葉マーカーであるBrachyury(Bra)とGoosecoid(Gsc)のmRNAの強い発現がみられることが分かった。一方、外胚葉である神経の初期マーカー(Mash-1とPax-6)や内胚葉マーカー(α-fetoproteinとGata-4)のmRNAの発現はみられなかった。これらのことから、通常の継代培養時のP19細胞は未分化で分化能を有しているものの、中胚葉への分化が進みつつあることが新たに分かった。そこで、本条件での初期の中胚葉分化における制御機構を探ることとした。 第2章 中胚葉マーカーの発現に対するTGF-βスーパーファミリーの関与 初期の中胚葉マーカーであるBraとGscを発現していることが分かったP19細胞におけるこれらの遺伝子の発現制御について検討した。BraとGscの発現を誘導する因子として、細胞の分化や増殖に関わる分泌性のタンパク質であるtransforming growth factor(TGF)-βスーパーファミリーのActivinやNodalの関与が知られている。これらのシグナル伝達は、細胞外に存在するこれらリガンドが細胞膜に存在するI型受容体とII型受容体に結合することに端を発し、I型受容体によってリン酸化された細胞内シグナル伝達因子であるSmad2/3はSmad4と結合して核内へ移行してBraやGscなどの転写を活性化するとされている。また、Nodalが受容体に結合するためには修飾因子であるCriptoやCrypticが必要である。 まず、通常の継代培養条件時のBraとGscのmRNAの発現の経時的な変化を調べたところ、培養開始後72時間目まで強い発現がみられたが96時間目から急激に減少していた。この時のSmad2のリン酸化を調べたところ、培養開始後48時間目で顕著に認められたリン酸化は、培養開始後72時間目から減少していた。このように、Smad2のリン酸化の減少はBraとGscのmRNAの発現の減少に先行して起こった。また、ActivinのI型受容体であるAlk4やNodalのI型受容体であるAlk4/7を含むAlk4/5/7の阻害剤であるSB431542処理によってBraとGscのmRNAの発現は濃度依存的に抑制された。これらのことから、P19細胞におけるBraとGscの発現はAlk4/5/7によるSmad2のリン酸化を介するTGF-βスーパーファミリーによって誘導されることが分かった。また興味深いことに、SB431542処理をすると濃度依存的に神経初期マーカーであるMash-1とPax-6のmRNAの発現の増加がみられ、Alk4/5/7を介するTGF-βスーパーファミリーによる神経細胞への分化抑制も示唆された。 Alk4/5/7によるSmad2のリン酸化を介するTGF-βスーパーファミリーとしてActivinやNodal以外にTGF-β、Gdf-1、Gdf-8およびGdf-11が知られている。そこで、これらリガンドとその修飾因子の発現を調べたところTgf-β2、Gdf-1、Gdf-11、NodalおよびNodalの修飾因子であるCriptoのmRNAの発現はみられたが、Activinの構成因子であるInhβA、InhβBの発現はみられなかった。また、Tgf-β2、Gdf-1およびGdf-11のmRNAの発現は48時間から144時間の間で経時的に増加したのに対し、NodalとCriptoはSmad2のリン酸化と同様に72時間目で減少しており、BraとGscのmRNAの発現の減少に先行していた。以上のことから通常の継代培養条件時のP19細胞におけるBraとGscの発現はNodalとCriptoによって誘導されていることが示唆された。第3章 P19細胞クローン亜株における遺伝子発現変化 P19細胞は均一な細胞集団ではないことが知られている。第2章でみられた,BraとGscの発現誘導の変化が、細胞集団の構成の変化に起因するのか、個々の細胞の遺伝子発現の変化に起因するのかを明らかにするために単細胞クローン亜株を作製し、遺伝子発現を調べた。単離した9亜株はすべて未分化マーカーであるNanogとOct-3/4のmRNAを発現していた。9亜株のうち、P19細胞と同様にBraとGscのmRNAを発現していてMash-1とpax-6のmRNAを発現していない亜株が5個で、逆にBraとGscのmRNAを発現せずにMash-1とPax-6のmRNAを発現している亜株が2個あり、さらにこれら4個の遺伝子すべてのmRNAを発現している亜株が1個、いずれのmRNAも発現していない亜株が1個みられた。P19細胞と同様の発現パターンを示した5亜株のうち代表的なclone#3亜株におけるBra、Gsc、NodalおよびCriptoのmRNAの発現の経時的な変化を調べたところ、P19細胞と同様に培養開始後120時間目では72時間目と比べて減少していた。また、SB431542処理によってもP19細胞と同様にBraとGscのmRNAの発現が減少した。従って、P19細胞ではclone#3亜株と同様の発現パターンを示す細胞集団が大部分を占めると考えられた。続いて、9亜株すべての細胞倍加時間を調べたところ亜株間で差はみられず、培養により細胞集団の割合は変化しないと考えられた。従って、P19細胞におけるBraとGscの発現の変化は、培養の経過による細胞集団の割合の変化ではなく、大勢を占めるclone#3亜株および同等の亜株の個々の細胞における遺伝子発現の変化によると考えられた。第4章 Nodalのノックダウンと添加による中胚葉マーカーの発現変化の確認 P19細胞を代表していると考えられたclone#3亜株を用いてNodalの発現を二本鎖RNA干渉法(dsRNai)でノックダウンし、NodalがBraとGscの発現に与える影響を検討した。まず、dsRNaiによってNodalのmRNAの発現は約60%抑制されることを確認した。この時、GscのmRNAの発現は約50%減少していたが、BraのmRNAの発現の減少は約20%と少なかった。従って、BraとGscの発現制御においてNodalが関与しているものの、Braの発現には他の因子が関与していると考えられた。また、Nodalの抑制によりMash-1のmRNAの発現はほとんど変化しなかったが、Pax-6は約100%増加していた。 次に、clone#3亜株とclone#4亜株にNodalを添加して培養し、BraとGscの発現を調べた。clone#4亜株はclone#3亜株とは異なり、BraとGscのmRNAを発現せずにMash-1とPax-6のmRNAを発現している亜株であり、NodalとCriptoのmRNAの発現も少ない。clone#3亜株のNodal添加培養ではBraとGscのmRNAの発現に大きな変化はみられなかったが、clone#4亜株ではNodalの濃度依存的に増加した。また、clone#4亜株におけるMash-1とPax-6のmRNAの発現はNodalの濃度依存的に減少していた。本実験のNodalのノックダウンと添加によって、BraとGscの発現がNodalによって誘導されることが明らかになった。また、同時に神経細胞への分化抑制が生じていることも示唆された。第5章 NodalとCriptoの発現の変化に関する検討 これまでの結果からP19細胞においてNodalとCriptoがBraとGscの発現を誘導していることが明らかになった。そこで、NodalとCriptoの発現の変化について検討した。まず、通常の培養に使用する6%のFBSを含む培地とそれより低血清濃度である3.6%と1.2%FBSを含む培地で培養したところ、FBSの濃度が減少するにつれてNodal、Cripto、BraおよびGscのmRNAの発現が減少した。この低血清培地に、6%FBS存在下で144時間培養した培地上清(Nodal、Cripto、BraおよびGscの発現が低レベルになった状態)を新鮮血清濃度が変化しないように添加したところ、発現がさらに減少した。このことから、P19細胞の培養を続けていくと培地中にNodalとCriptoの発現を積極的に抑制する因子が蓄積すると考えられた。NodalとCriptoの発現は自身のシグナル伝達によって正に制御されており、それを抑制する代表的な因子として同じTGF-βスーパーファミリーのLefty-1とLefty-2、修飾因子であるCerberus1とCerberus2が存在する。そこで、培養144時間におけるこれらの発現を調べたところ、Lefty-1、Lefty-2およびCerberus1のmRNAの発現がみられたが、それらの経時的変化はむしろ減少していた。また、Cerberus2のmRNAは発現していなかった。さらに、タンパク質レベルでのLeftyの発現を調べたところ、培養開始後48時間で強い発現がみられていたが、それ以降の経時的な増加はみられなかった。従って、P19細胞においてLefty-1/2やCerberus1によるNodalとCriptoのシグナル伝達の抑制が起こっているものの、さらに抑制する未知の因子が関与することも示唆された。 以上、本研究により未分化なP19細胞においてNodalとCriptoが中胚葉マーカーであるBraとGscの発現を誘導していることを分子レベルで明らかにした。さらに、このNodalとCriptoによる中胚葉マーカーの発現制御は細胞集団の構成比の制御ではなく個々の細胞自体の遺伝子発現の制御であることも明らかにした。また、NodalとCriptoによって中胚葉への誘導が起こるとともに、神経細胞への分化抑制が起こることも示唆された。これらによりP19細胞における初期の中胚葉分化の制御の一部を説明した。

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000439061
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000440399
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000009439099
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
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