日本におけるテレビ受像機のデザイン変遷と家具調テレビの成立に関する研究 A study on the design development of television set and kagu-cho TV in Japan

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著者

    • 増成, 和敏 マスナリ, カズトシ

書誌事項

タイトル

日本におけるテレビ受像機のデザイン変遷と家具調テレビの成立に関する研究

タイトル別名

A study on the design development of television set and kagu-cho TV in Japan

著者名

増成, 和敏

著者別名

マスナリ, カズトシ

学位授与大学

九州大学

取得学位

博士 (芸術工学)

学位授与番号

甲第9840号

学位授与年月日

2010-03-25

注記・抄録

博士論文

本研究は,日本におけるテレビ受像機のデザイン変遷について,草創期から普及期,成熟期に至る過程を明らかにするとともに,日本独自のデザインとされる家具調テレビの成立について検証したものである。日本におけるテレビ開発は,戦後になって再開したため欧米先進諸国とは大きな差ができていた。そのため,1953(昭和28)年2月1日の本放送開始に向けたテレビ受像機開発においては,欧米からの技術導入とともにデザインも手本として導入された経緯がある。昭和20年代後半は,テレビの普及啓蒙活動として,「街頭テレビ」が設置され多くの生活者にテレビの魅力を知らしめることとなる。当時のテレビ受像機は,大衆にとって高嶺の花と言われる価格であったたが,「貸テレビ」「月賦販売」もあり次第に一般家庭へ普及していった。1950年代初頭の欧米では,オールインワンタイプを最高級機種としてコンソールタイプ,テーブルタイプで,画面サイズによる機種展開が行われている。これらのデザインは,日本のテレビ受像機にも影響を与え,テーブルタイプに着脱可能な4本の丸脚を付けたコンソレットタイプは,昭和30年代の主流となる。しかし,欧米のデザインは,日本の生活様式に合ったものだけが受け入れられたために,扉付のコンソールタイプは普及しなかった。また,オールインワンタイプは,高級機種としてではなくコストパフォーマンスのよい製品として導入された。昭和30年代後半に各社より製品化されたコンソールタイプにも4本の丸脚が付いているが,これも米国にあったテレビ受像機の形態を導入したもので,日本独自の発想からデザインされたものではなかった。この時期,カラーテレビ受像機が市場投入されるが,白黒テレビ受像機との価格差から販売は伸びなかった。一方,白黒テレビ受像機の普及率は95%を超えて2台目と買い替え需要が主となり,生活者の購入を喚起する手段としてデザインが注目されるようになる。このような状況の中で生まれたのが家具調テレビであった。昭和40年代の初めに生まれた家具調テレビの創作背景には,当時,世界的なデザイン潮流としてあったデーニッシュ・モダン・デザインがある。米国でも同様に家具調デザインによるテレビ受像機の機種展開が行われたが,家具調テレビのデザイン創作経緯より,米国の家具調デザインを模倣したものではないことは明らかである。家具調テレビを代表する典型的なデザインのひとつとされるのが,松下電器より発売された「嵯峨」である。当時の新聞広告では,「嵯峨」以前の機種より広告記述として「家具調」が使用されており,各社の広告記述でも確認できる。そして,次第に「家具調」を表現するデザインを各社が製品化したことから,広告記述の「家具調」が「家具調デザイン」を誘発した要因のひとつになったと推測できる。「家具調」の意味は,当初「欧米家具調」といった使用もされていることから和風,日本調と必ずしも一致するものではなかったが,「嵯峨」のデザインが和風ネーミングとともに大量広告されたために,家具調テレビは,日本調のイメージを持ち,「嵯峨」がその典型となったと推測できる。「嵯峨」の特徴は,張り出した天板,スピーカーグリル桟,本体と一体感のある脚,天然木の木質感表現である。中でも木質感表現は,住空間で生活者に与える意味性からイミテーションの塩ビシートになってからも家具調デザインに広く使用された。また,「嵯峨」は,シリーズ展開されており,初代「嵯峨」とは差別化された多様なデザインが展開されている。すなわち,白黒テレビ受像機の需要を喚起するためにデザインされ,常に新たな価値をデザインで生むことを目的としていた。「嵯峨」のデザインは,同社のステレオ「飛鳥」に影響されているとされるが,「嵯峨」は,同時期のステレオ「宴」の影響を受けており,「宴」は,上位機種であったステレオ「飛鳥」の影響を受けている。「飛鳥」は,現在においても日本調を代表するデザインとされているが,「飛鳥」をデザインした高田によると,日本調を狙ってデザインしたのではなく,松下電器の社内誌『松風』に始まる広報宣伝によって,「校倉づくり」の日本的造形イメージが付けられたことによる。家具調テレビの特徴が創出された経緯を意匠出願順に見ていくと,「嵯峨」の形態特徴3要素を具備した最初の意匠出願は,三洋電機からであったことがわかる。三洋電機は,家具調デザインをコンセプトとして「日本」を発売しており,家具調テレビの誕生の背景には,同時代のデザイン潮流があることがわかる。以上より,デザインは,デザイナー個人の行為によって創出されるものであるが,創作された時代と社会が背景にあることがわかる。テレビ受像機は,欧米先進諸国から導入されたデザインの中で日本の生活に相応しいものだけが残っていった。そして,メーカーの製品開発へのデザイン導入により,次第に日本独自のデザイン開発が重視され,その結実として家具調テレビが生まれたと見ることができるだろう。

This paper summarizes the transition of TV design in Japan and the development of Kagu-cho style TV. When Japan imported the technology for TV from Western countries, they also imported designs. The consolet type with 4 detachable rounded legs, developed in the Western countries, became mainstream in Japan in the late 1950s. The Japanese console type in the 1960s had also 4 rounded legs but its design was not yet unique to Japan. In this period, the replacement demand constituted a large share of the demand for monochrome TV sets. Then, Kagu-cho TV was developed as a trigger for purchase. Behind the development of Kagu-cho TV in the mid-1960s was the modern Danish design. It was clear that Japanese Kagu-cho TV was not a follower of the American design considering the process of its birth. In newspaper ads at the time, the word “Kagu-cho” had been used before “Saga” was launched, and various manufacturers commercialized designs which expressed “Kagu-cho” style. The word “Kagu-cho” in the ads was one of the factors that created “Kagu-cho” design. At first, “Kagu-cho” didn’t necessarily mean Japanese style but later, “Saga”, whose name and design was Japanese style, was introduced with a big advertising campaign. The campaign created an image of Japanese style for Kagu-cho TV and made “Saga” its representative. The features of “Saga” were a projecting top board, speaker grille, the legs harmonized with the body and natural wooden texture. For the “Saga” series, various designs that differentiated from the 1st generation design were introduced. The design of “Saga” was influenced by “Asuka”. The reason why “Asuka” has an image of Japanese style is because the advertising campaign created an image in association with “Azekura-zukuri”, Japanese traditional structure. Considering the creation process of Kagu-cho TV in relation to design application, Sanyo Electric first applied patents for the design features that characterize “Saga”. Sanyo launched “Nihon”, a Kagu-cho style TV. This meant that behind the birth of Kagu-cho TV was the design trend at that period. To summarize, even though a design is created by an individual designer, the era and society is apparent in the background. Regarding TV sets, only the designs that were suitable for Japanese lifestyle survived among those brought in from the Western countries. Then Japanese manufacturers came to take into account design for product development and gradually Japanese unique design became more important. As a result, Kagu-cho TV emerged.

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000504862
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000506528
  • DOI(JaLC)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000010900486
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
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