組織サイバネティクスの視点からの経営診断手法に関する研究 : システム論的経営診断の理論と診断ツール A study on management diagnosis method from viewpoints of organizational cybernetics : theory and tools for management diagnosis based on systems approach

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著者

    • 疋田, 眞也 ヒキタ, マサヤ

書誌事項

タイトル

組織サイバネティクスの視点からの経営診断手法に関する研究 : システム論的経営診断の理論と診断ツール

タイトル別名

A study on management diagnosis method from viewpoints of organizational cybernetics : theory and tools for management diagnosis based on systems approach

著者名

疋田, 眞也

著者別名

ヒキタ, マサヤ

学位授与大学

三重大学

取得学位

博士 (学術)

学位授与番号

甲第1569号

学位授与年月日

2012-03-26

注記・抄録

博士論文

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本研究の目的は、組織サイバネティクスの視点から実践的な経営診断に活用できる理論とツールを新しく提案することである。現在実務的に実施されている経営診断は、総合的で科学的なバックボーン理論が欠如しているため、関連する経営学の個別専門分野から借用した理論に基づき、分野別に細分化される傾向を持つ。また、客観的な分析ツールが乏しいため、経営診断者自身のエキスパートとしての経験に基づく直観的な判断が拠り所となることが多い。そのため、診断結果は、整合性を持たない個別分野からの改善指摘の集まりに過ぎず、かつ経営診断者の恣意性に依存する場合が多いことが指摘されている。本研究では、システム論的視点に立ち、経営組織をシステムとして理解することが、これらの問題点に対して有効性の高い経営診断の実施につながることを示す。そこでは、組織サイバネティクスのVSM(Viable System Model)を基本的なバックボーン理論として活用し、その理論に基づき経営診断の方法論を構築していくことを提案する。これにより客観性を持ち、総合的で理論的根拠に基づいた経営診断の実施が可能となる。VSM は、組織サイバネティクス論の創始者であるBeer が提唱した生存可能な生命体を表すシステムモデルである。VSM は、環境に適応し生存するすべての生命体が保持する普遍的な特徴を、人間の神経系統の制御機能を参考にシステムモデルとして表したものである。VSM は、政策・分析・統制・監査・実行をつかさどる5種類のサブシステムから構成され、上位階層のシステムが下位階層のシステムに含まれる再帰型のシステムモデルとして構築されている。またVSM は、サイバネティクス論に基づき、通信と制御のプロセスという情報処理モデルを組織理解に応用し、①Ashby の必要多様性の法則(Law of Requisite Variety)と②Cannon のホメオスタシス論を基本的な組織法則としている。Beer は、これら2つの法則にもとづき、生存可能性を高める組織の「あるべき原理と公理」を組織規範として提供している。経営診断においてVSM を活用することで、総合的な理論に基づく経営診断が可能となる。しかし一方で、VSM に対しては、VSM は静的な構造モデルであり動的視点が欠如している点や、システム内を流れる情報の意味やコンテキスト(文脈)の取り扱いの面で、弱さの指摘がある。また、運用面でも、機能主義的モデルのはずのVSM が客観的な運用に苦慮する場合が多く、解釈主義的運用に終始している点などVSM に対する批判も存在する。そのため、現状では実践的な経営診断への活用が充分、実施なされていない。本研究では、これらの批判点を吸収し、VSM の経営診断への利用を促進させるため、(1)理論面、(2)支援ツール面、(3)実践面の3つの視点から効果的な導入方法について検討を行った。(1)理論面 VSM の経営診断への活用を促進させるため、理論面で新しくフレームワークの整理を行う。そこでは、Parsons のシステム概念を参考にし、機能(Function)を媒介とした構造(Structure)-行動(Conduct)-成果(Performance)のフレームワーク(F-SCP フレームワーク)を定義する。このことで、より広いフレームワークの中で、VSM を位置づけ、システム概念を拡張することで従来からのVSM の構造モデルとしての良さに加えて、動的過程や意味やコンテキストを扱うことができるようになる。このことで、既存の経営学説と接点をもつことができ、それらの知識体系を活用できる利点を持てるようになった。(2)支援ツール面VSM は、情報の通信と制御という情報処理モデルとして構成されており、統計解析などの計数処理と親和性が高い。これらの利点を活用し本研究では、経営状況を可視化することでVSM 診断に客観性向上をもたらす下記の4つの支援ツールの提案を行う。①組織ベクトル・・・組織ベクトルは、VSM のSystem1~5の各サブシステムの活動度合いを示したものである。サブシステムの働き度合いを可視化することで、サブシステムにより構成される組織構造のバランスの良否判断に用いることができる。②社会ネットワーク分析・・・組織の中を流れる情報を社会ネットワーク分析にて可視化を行い、VSM の組織規範の視点から経営組織を診断する手法に利用することができる。③テキストマイニング分析・・・テキストマイニングを活用することで、情報の量や方向性だけでなく、意味やコンテキスト、概念を含む情報の質を把握することができる。このことで、組織内の意味生成過程や概念の存在を可視化して取り扱うことができる。④マルチエージェント・シミュレーション分析・・・複雑性の高い環境下での企業行動特性をモデル化し、画面上でシミュレートする。このことで、経営者にも改善効果を直感的に理解しやすくなり、コミュニケーションツールとしての役割が期待できる。(3)実践面 本研究が提案するVSM に基づいた経営診断は、実践面で診断結果の一方通行的な通知報告だけでは効果が限定される。より効果的な実施をするためには、経営診断プロセスを、単なる診断指導という目的から、討議・ディベートを活用した組織開発(Organizational Development : OD)や人材教育の場としての視点を持ち、運用していくことが有効性を高める。そして、参加者間の気づきとともに、経営診断プロセス自体が学習プロセスして常にスパイラル的に発展していくことが望まれる。これらは、システム論の観点からは、客観性に重きを置く機能主義アプローチの良さと、意味解釈を重視する解釈主義アプローチの良さを相補的に活用するマルチパラダイム的な運用を実施していくことになる。システム論的視点からの経営診断の研究は、まだ緒に就いたばかりであり、今後、本研究の成果が、経営のフィールドで活用されることにより、特に厳しい経営環境を生き抜く地域の企業経営者にとって有益な指針となり、地域企業が活性化され、地域イノベーションに向けた積極的な企業行動が促進されること期待する。

三重大学大学院地域イノベーション学研究科博士後期課程

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000560183
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000562390
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 023851608
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
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