世論調査における方法的研究 : エリア・サンプリングにおける二段抽出ならびに郵送とインターネットの併用方式 Methodological Research in Public Opinion Surveys: Two-Stage Area Sampling and the Mixied-Mode Using Mail and the Internet

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著者

    • 氏家, 豊 ウジイエ, ユタカ

書誌事項

タイトル

世論調査における方法的研究 : エリア・サンプリングにおける二段抽出ならびに郵送とインターネットの併用方式

タイトル別名

Methodological Research in Public Opinion Surveys: Two-Stage Area Sampling and the Mixied-Mode Using Mail and the Internet

著者名

氏家, 豊

著者別名

ウジイエ, ユタカ

学位授与大学

電気通信大学

取得学位

博士 (学術)

学位授与番号

甲第673号

学位授与年月日

2012-03-23

注記・抄録

博士論文

2011

世論調査の実査環境は年々厳しくなり,調査の協力依頼が難しくなってきている.特に,調査対象者の抽出に関する問題,ならびに回答者からデータを収集するための調査方法に関する問題は深刻である.まず,標本抽出に関しては次のとおりである.2006年に住民基本台帳法の一部改正が行われ,住民台帳や有権者名簿の閲覧が大幅に制限されることになり,住民台帳や有権者名簿からの抽出に代わって,現地で調査対象者を直接抽出するエリア・サンプリングが用いられる機会が多くなった.エリア・サンプリングでは,まず住宅地図などを利用して調査対象世帯を抽出し,訪問した世帯の中で調査適格者が複数いる場合は,対象世帯の適格者数によって年齢が上から何番目の人とする選び方(Kish法)や,誕生日が調査日に一番近い人とする選び方(誕生日法)などによって調査対象者を決める.ここでは,いずれの場合においても,「世帯内の適格者数」あるいは「誕生日」という世帯情報ないしは個人情報について質問することになる.このような過程は調査を進めるうえで調査員に負担となり,抽出手続きをより簡略化し,対象者への協力依頼がスムーズに行われるような対策が望まれる.また,エリア・サンプリングにおいては世帯内の調査適格者数によって個人が選ばれる抽出確率が異なるため集計時にウエイト補正を行う必要があるとされるが,実際には回収率が低く標本の属性に偏りがあるときは,このような補正によって他の属性の偏りが増幅することがあるため補正を行わないことがあり,必ずしもウエイト補正がなされるわけではない.さらに,標本設計において層化を行う際に,人口をもとに層化を行うか世帯数をもとに層化を行うかという点も十分に議論が尽くされていない.以上の問題を解決し,エリア・サンプリングの手続きをある程度定型化することができれば,標本設計やデータの取り扱い上の混乱をなくすことができるばかりでなく,調査が困難な環境のもとで調査員の負荷を軽減し調査の協力が得やすくなることが期待できる.そこで,世帯の抽出をせず,調査地点の中から個人を直接抽出する方法として,1世帯あたりの平均適格者数(調査地点における調査適格者数を世帯数で除した数)を利用することが考えられる.すなわち,従来の「調査地点→調査世帯→調査対象者」という三段抽出ではなく,1世帯あたりの平均適格者数をもとに,住民台帳から抽出するのと同様に「調査地点→調査対象者」という二段抽出を行えばよい.本研究で新たに提案する平均値による抽出法(世帯あたりの平均適格者数を利用した抽出)では,世帯あたりの平均適格者数をもとに二段抽出で住民台帳から個人を抽出する場合と同じ要領で抽出を行う.平均値による抽出法では,1世帯あたりに平均適格者数の人が存在しているという前提である.そのために,スタート番号と抽出間隔によって特定された個人が実際に訪問した世帯に存在しないときは,その隣接世帯へと移って抽出する.あくまでスタート番号と抽出間隔によって指定された個人を探し当て抽出する.すなわち,調査地点において一定の規則のもとで無作為に調査対象者個人が抽出されることになる.問題は,その方法により抽出される標本が母集団を適切に反映したものであるかどうかということになる.本研究では,平均値による抽出法の実用性について検証することを目的とし,住民台帳や有権者名簿から抽出した場合や従来のエリア・サンプリングによる抽出結果と平均値による抽出法により抽出した場合の抽出結果を比較した.比較の方法は二通りある.ひとつは仮想データを用いるもので,世帯人数の分布をもとに,世帯の適格者数を割り当てた100世帯を用意し,そこで住民台帳や有権者名簿などから抽出した場合の抽出結果と,平均値による抽出法による抽出結果を比較したものである.もうひとつは実際の抽出単位として用いられる国勢調査区を調査地点として設定し,その調査区において有権者名簿による抽出を行った結果,ならびに従来のエリア・サンプリングの一般的な手法により抽出を行った結果と,平均値による抽出法により抽出を行った結果とを比較したものである.その結果,世帯人数の分布をもとに行ったシミュレーションにおいて,標本平均の標準誤差(SE)を計算し,平均値 ± SE × 1.96(95%信頼区間)の範囲と照合したが,全国の場合では,平均値による抽出法を用いた結果において,抽出された個人の世帯における「適格者数」に関しては10グループ中9グループで,また抽出された世帯の中での「年齢順位」に関してはすべてのグループで,その範囲内の数値となった.世帯人数の分布に隔たりがある2つの地域(東京都新宿区と山形県鮭川村)において,平均値による抽出法を用いた結果については,新宿区で「適格者数」に関しては10グループ中5グループで,また,「年齢順位」に関しては10グループ中8グループで範囲内の数値となった.鮭川村でも「適格者数」に関しては10グループ中7グループで,「年齢順位」に関しては10グループ中9グループで範囲内の数値となった.次に,実際に抽出された標本がどのような抽出結果になるのかをみるために,実際の有権者名簿からの抽出ならびにKish法による従来のエリア・サンプリングのそれぞれと,平均値による抽出法を利用した抽出との比較を行った.その結果は,「適格者数」については平均適格者数を用いた抽出において95%信頼区間の範囲を外れたケースが9調査区中3調査区あったが,「年齢」「性別」「年齢順位」については1つもなかった.特に,従来のエリア・サンプリングの場合は,「年齢」「性別」「適格者数」のいずれにおいても,95%信頼区間を外れたケースが1件ずつあるのに対して,平均値による抽出法では,95%信頼区間を外れたケースは「適格者数」においてだけであった.人工データによるシミュレーションにおいても,住宅地図を用いて実際の調査と同じ条件で抽出された平均値による抽出法による抽出結果においても,従来のエリア・サンプリングと比べて直ちに優劣を判断することはできないが,平均値による抽出法が従来のエリア・サンプリングに代替し得る有効な方法であると考えることができよう.また,平均値による抽出法は,訪問世帯でのファースト・コンタクトにおいて,調査の協力依頼に辿り着くまでのやりとりが,従来のエリア・サンプリングに比べ簡略化されており,調査員と調査対象者の負荷を軽減することが期待される.さらに,従来のエリア・サンプリングにおいては,第2次抽出単位である世帯から調査対象者個人を選出する際の抽出確率の違いから,ウエイト補正が必要であるとする主張があるが,平均値による抽出法では第2次抽出単位が個人であるためウエイト補正の必要はない.回収標本の属性の構成に偏りがみられる場合,ウエイト補正が他の属性の偏りを増幅する懸念があり,実際に補正を行わないことがあるが,このような現場での混乱も排除できる.また,標本設計に際しては,層化による標本の配分において,平均値による抽出法では個人を第2次抽出単位とすることで,人口をもとに層化を行えばよいから,世帯数による層化か人口による層化かという混乱はない.平均値による抽出法は,従来のエリア・サンプリングが抱える問題を解決する,きわめて有効な抽出法であることを検証した次に,データ収集のための調査方法に関しては次のとおりである.今日のコミュニケーション手段としてインターネットの目覚しい普及がある.今後もさらにその普及は進むであろう.インターネットを世論調査に利用することができれば,将来的には回答者層の拡がりが期待できる.しかし,現在実施されているインターネット調査は一部のインターネットユーザーを対象としており,母集団を反映した標本を得ることはできない.世論調査の原則は,母集団から無作為に標本抽出が行われることである.したがって,インターネット調査を行う場合,無作為に抽出された標本に対してインターネット調査を行うことになるが,標本となる調査対象者が全員インターネットが利用できるとは限らない.そこで,インターネットが利用できない調査対象者に対して,インターネットと同質の調査結果が得られるよう,同じ自記式調査として郵送調査を併用することにより,無作為に抽出された調査対象者全員に対して調査を行うことができる.しかし,インターネットによる回答と郵送による回答には回答の差異は生じないのか,生じるとすればそれはどのような差異かを見定める必要がある.本研究においては,無作為抽出による標本をもとに調査することにより標本の代表性の問題を解決し,さらに回答手段の違いによってどのような調査結果がもたらされるのかを確認し,世論調査における併用調査の可能性を探ることを目的とした.そのために,本研究ではさいたま市民を対象に有権者名簿から1,200人を無作為抽出し,郵送とインターネットによる併用調査を実施した.その調査の結果,郵送を主として依頼した調査(400人対象)は,郵送回答が132(33.0%),インターネット回答が37(9.3%)で,両者の計は169(42.3%)であった.インターネットを主として依頼した調査(800人対象)は,郵送回答が226(28.3%),インターネット回答が133(16.6%)で,両者の計は359(44.9%)であった.両調査の合計(1,200人対象)は,郵送回答が358(29.8%),インターネット回答が170(14.2%)で,両者の総計は528(44.0%)であった.調査結果については,その依頼方式別(郵送主依頼,インターネット主依頼)と,回答手段別(郵送回答,インターネット回答)に分析を行った.その結果,郵送とインターネットという依頼方式の違いはあっても,いずれも無作為に抽出された標本をもとに調査が行われており,回収標本の標本構成にはほとんど相違がみられなかった.そのため,郵送とインターネットの依頼方式の違いによる回答の差異はほとんど認められなかった.しかし,依頼方式別には同質の標本であっても,郵送回答者とインターネット回答者のインターネット利用率の違いが標本構成の違いを生み,その違いが回答手段別の回答の差異をもたらした.調査結果の多変量解析により,回答手段の違いそのものが回答の差異に影響を与えてはいないことを確認したうえで,標本構成のどのような違いがどのように回答の差異を生み出しているのかをみたところ,質問の中でχ2乗検定の結果,回答手段別の有意差が認められた定住意向(いま住んでいるところに住み続けたいと思うか)については,郵送回答者とインターネット回答者とでは,年齢別,あるいは住居形態別の標本構成の違いが,それぞれの回答の差異をもたらしていることが示された.つまり,年齢別に関していえば,高齢者層の割合が多い郵送回答者の方が,若年層の割合が多いインターネット回答者に比べ,「住み続けたい」という回答が多くなっている.住居形態別にみると,持ち家の割合が多い郵送回答者に定住意向が比較的強く表れている.定住意向以外に回答手段別の有意差が認められた質問(高齢者福祉に対する満足度,新聞の閲読状況,赤信号への対応)についても,定住意向と同様,属性の標本構成の違いによる回答の差異が表れている.以上の分析の結果,併用調査において回答手段の違いによる回答の差異は,回答手段を選んだ回答者層の標本構成の違いによる差異であることを明らかにした.世論調査においてインターネットの利用は時代の要請であり,同時に,生活の多様化が進む中で,調査対象者の都合を考慮した調査方式の併用が求められる.そして,現時点ではインターネットを利用した世論調査では郵送調査との併用が必要となろう.今回の調査では,そのとき異なる回答手段による調査結果をどう捉えるべきかを明らかにし,インターネットを利用した世論調査における郵送調査との併用のあり方を示すことにより,世論調査における併用調査の有効性を確認することができた.本研究では「エリア・サンプリングにおける二段抽出」と「郵送とインターネットの併用方式」という,無作為抽出の実現と回収率の向上をともに共通のテーマとする問題について検討した.その成果として,世論調査における原則である無作為抽出の前提に立って,調査の精度を高めるために回収率の向上を図るための具体的な方策が得られた.

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000560214
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000562421
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 023851844
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
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