亜南極域サウスジョージアにおけるナンキョクオットセイの採餌戦略に関する研究

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著者

    • 岩田, 高志 イワタ, タカシ

書誌事項

タイトル

亜南極域サウスジョージアにおけるナンキョクオットセイの採餌戦略に関する研究

著者名

岩田, 高志

著者別名

イワタ, タカシ

学位授与大学

総合研究大学院大学

取得学位

博士 (理学)

学位授与番号

甲第1507号

学位授与年月日

2012-03-23

注記・抄録

博士論文

  本研究は、亜南極域における主要な海洋高次捕食者であるナンキョクオットセイArctocephalus gazella の採餌戦略を明らかにすることを目的に、1)加速度ロガーを用いてオットセイの口の開閉を検出する手法の確立、2)3次元遊泳軌跡と口の開閉記録から見た、オットセイの餌探索行動の研究、3)餌環境が異なる年間でのオットセイの採餌行動の比較、を行った。  パッチ状に分布する餌を利用する動物は、餌に遭遇した場合に移動軌跡の方向転換率を増加させ、移動速度を低下させることが、最適な餌探索戦略の理論から予測されている。この行動は、一般に地域限定探索(Area-Restricted Search(ARS))と呼ばれている。海洋高次捕食者において、餌遭遇と遊泳軌跡の情報を組み合わせてARS 行動を調べた研究は非常に少ない。一方、海洋高次捕食者の採餌行動は、海洋環境変化にともなう生態系変動の指標として各地で使用されている。海洋高次捕食者の採餌行動の変化を海洋生態系変動の指標として的確に利用するためにも、彼らの詳細な採餌行動を調査する必要があると考えられる。近年開発されたデータロガーを用いることにより、動物の遊泳軌跡や餌遭遇に関係した行動を調べることが可能となっている。サウスジョージアで繁殖するナンキョクオットセイは、ナンキョクオキアミEuphausia superba を主要な餌とする海洋高次捕食者の一種である。オットセイの餌遭遇や遊泳軌跡の情報を明らかにすることで、彼らの餌探索行動や餌環境の変化に対する行動の変化を捉えることができると考えられる。そこで、本研究では近年開発された動物装着型データロガーを用いて、餌遭遇や遊泳軌跡の情報を取得し、ナンキョクオットセイの餌探索行動や変動する餌環境に対応した採餌行動を明らかにすることを目的とした。  野外調査を2009 年の1 月から3 月に、サウスジョージア・バード島にて実施した。20 個体の授乳期間中の雌のナンキョクオットセイを対象とした。オットセイの下顎と背中と首の後ろにデータロガーを取り付けた。本研究では地磁気加速度ロガー、加速度ロガー、カメラロガー、GPS ロガーを様々な組み合わせで装着した。オットセイの1 採餌トリップ後に動物を再捕獲し、データロガーを回収した。回収したデータロガーから潜水深度記録、顎の加速度記録、背中の加速度記録、地磁気記録、GPS による位置情報を取得した。また採餌行動の年間の比較を行うために、2005 年に同様に取得された9 個体分の加速度データも使用した。  オットセイの下顎の加速度記録から約3Hz の高周波成分の動きが検出された。この顎に検出された加速度記録の高周波成分のピークは、背中の加速度記録のピークよりも大きく鮮明であったため、口の開閉であることが示唆された。オットセイの潜水中の口の開閉回数は平均10 回であった。口の開閉が検出された潜水では、オットセイが頻繁に鉛直ターンをしていたことから、鉛直ターンは口の開閉に連動して生じていると考えられた。口の開閉の記録は、捕食の成功・不成功を区別できないが、少なくとも餌遭遇の指標として有効であることが示唆された。また、体の動きから計測可能な餌遭遇の指標として鉛直ターンの計数が有効であることが示唆された。  次に、地磁気、加速度とGPS の記録から遊泳軌跡を再構築し、遊泳軌跡と餌遭遇の指標である口の開閉の情報を組み合わせて、短期間の様々な時間スケール(潜水バウトスケール、1 回の潜水スケール、潜水中のボトムのスケール)におけるオットセイの餌探索行動を調べた。オットセイの潜水バウト中の口の開閉頻度は、潜水バウト終了後の水平直線移動距離と関係が無かった。また、平均潜水バウト時間よりも短い10-90 分の時間スケールにおいては、過去10 分間の口の開閉回数とその後の10 分間の水平直線移動距離の間に、10 分以上の時間スケールよりも強い負の直線的関係が示された。さらに、オットセイの潜水終了後の水平直線移動距離について、過去1-50 回の潜水までの口の開閉回数の影響を調べたところ、直前(過去1 回)の潜水の影響を受けていることが示された。次に1 回の潜水スケールにおいては、潜水中の口の開閉回数は、潜水後の水平直線移動距離と負の直線的関係を示した。次に潜水中のボトムのスケールでは、ボトム中の口の開閉回数は、潜水遊泳軌跡の直線度と負の直線的関係を示した。これらの結果は、ナンキョクオットセイが、潜水バウトや過去10 分以上の時間スケールではなく、1 回の潜水スケールや過去10 分間程度の短い時間スケールでの採餌経験を元に餌探索をしていることを示唆する。さらに、パッチ状に分布するオキアミを利用するナンキョクオットセイは、餌に遭遇した後に移動軌跡をより湾曲させ、比較的狭い範囲(数十メートルスケール)に留まるARS 行動をすることで、効率良く餌探索していたことが示唆される。  次に、餌環境が異なった2 年間(2005 年と2009 年)において、オットセイの餌遭遇の指標である鉛直ターンや潜水深度を比較し、餌環境の変化に対する行動の変化を調べた。潜水中の餌遭遇率は、2009 年(夜:0.04 回/秒、昼:0.02回/秒)の方が2005 年(夜:0.06 回/秒、昼:0.03 回/秒)より昼夜ともに低かった。この結果は、2009 年のオットセイの主要な餌であるオキアミの資源量の低さが、オットセイの餌遭遇率に影響していたことを示唆する。ボトム中の鉛直ターン間隔は、2009 年(夜間:15.7 秒、昼間:25.8 秒)の方が2005 年(夜間:9.2 秒、昼間:13.1 秒)より昼夜ともに長かった。オットセイが1回の潜水中に遭遇する餌はすべて1 つのパッチに属すると仮定すると、ボトム中の鉛直ターン間隔は、オットセイが遭遇するパッチ内の餌密度の指標として考えることができるだろう。この指標に基づくと、オットセイにとっての2009 年の餌環境は、パッチ内の餌の密度が低下していたことを示唆する。一方、オットセイの夜間の1 時間あたりの潜水時間に年間で差は見られなかったが、昼間の1時間あたりの潜水時間は2009 年(9 分/時間)の方が2005 年(2 分/時間)よりも長かった。結果として、1日あたりの総水中滞在時間は2009 年(6.6 時間)の方が2005 年(4.5 時間)よりも長かった。また、1日あたりの餌遭遇数は年間で差が見られなかった(2005 年:1139 回、2009 年:1071 回)。この結果は、ナンキョクオットセイが1 回の潜水での餌遭遇数の減少を、昼間に長く潜水し1 日あたりの潜水時間を長くすることによって補い、1 日あたりの餌遭遇数を2005 年と同程度に維持していた可能性を示唆するだろう。  本研究は1 秒ごとの時間スケールでのナンキョクオットセイの口の開閉や鉛直ターン、遊泳軌跡を調べることによって、詳細な餌探索行動や餌環境に対応した採餌行動を明らかにした研究である。本研究で確立された餌遭遇と遊泳軌跡の情報を組み合わせて採餌行動を詳細に明らかにする手法は、多くの海棲哺乳類、特に鰭脚類に対して広く応用可能であると考えられる。今後、本研究の手法を用いることにより、様々な種類の海洋高次捕食者の餌探索行動や海洋環境変化に対する行動の変化が明らかになると期待される。

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000564003
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000566226
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 024027610
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL-OPAC
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