大気中水銀の動態に関する研究

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著者

    • 芹川, 裕加 セリカワ, ユカ

書誌事項

タイトル

大気中水銀の動態に関する研究

著者名

芹川, 裕加

著者別名

セリカワ, ユカ

学位授与大学

滋賀県立大学

取得学位

博士(環境科学)

学位授与番号

乙第22号

学位授与年月日

2013-01-30

注記・抄録

博士論文

水銀は、火山活動等の自然発生に加え、人為活動によっても環境中に放出されている。国連環境計画(UNEP)は世界全体における人為活動による大気への水銀放出量は2005年の推計値で1,920トン/年、そのうち、約1,280トンがアジア諸国からによるものであり、中国の寄与が大きいと推定している。我が国ではアジア大陸から偏西風の影響によって大陸由来の酸性降下物質や黄砂等が観測されていることから、水銀も気流に乗って共に運ばれてくる可能性が示唆される。さらに、南米やアフリカ、東南アジアなどでは小規模な金精錬現場(ASGM)において大量の水銀が使用され、処理されることなく環境中に排出されている。排出された水銀は滞留時間が比較的長いことから長距離輸送による非汚染地域への影響も指摘されるなど地球規模での水銀拡散が現在懸念されている。 2005年にUNEPは水銀に関するDecision 23/9Ⅳを採択し、各国政府機関、国際機関、非政府組織ならびに民間組織に対して環境への水銀放出量と健康リスクの低減のためのパートナーシップの設立を求めた。その要求を受け、2006年には日本を含む6ヶ国が参加して水銀の大気輸送に関する研究分野のGlobal Partnership が発足した。これは、水銀の越境移動や極地や高地における水銀の沈着、大気中水銀濃度などに関する研究を促すもので、大気中の拡散状況の把握が国際的に重要な課題であるという認識に立ったものである。 そこで本研究では、大気中水銀に関する以下の2点について検討することを目的とした。 Ⅰ.大陸からの水銀輸送の可能性 Ⅱ.水銀の人為発生源の1つであるインドネシアの小規模な金精錬現場(ASGM)から大気中へ放出される水銀の現状把握 Ⅰ.大陸からの水銀輸送の可能性 水銀の長距離輸送を調べるためには大陸からの影響が最も現れやすい山岳地において水銀濃度の経時変化に関する情報を取得することが重要であると考え、①北アルプス立山において大気中ガス状水銀(Hg(0))濃度と、二酸化硫黄(SO2)やオゾン(O3)等の大気汚染物質濃度の連続測定、ならびに②山岳地と平野部の降水に含まれる水銀の測定を行った。 その結果、立山の標高2,450mの観測地点では火山ガスの影響受けHg(0)とSO2とは同時に濃度が上昇する現象が観測された。そこでSO2濃度が低い期間を選択し火山ガスの影響を排除したうえでO3を長距離輸送の指標としてHg(0)の輸送過程を検討した結果、Hg(0)はO3と同時に大陸から輸送されている可能性が示された。しかしながら、火山ガスの影響に比べHg(0)濃度の上昇はわずかであった。さらに標高977mの観測地点において硫酸エアロゾル(SO42-)とSO2を長距離輸送の指標として検討した結果、Hg(0)はSO42-と同時に大 陸から輸送されている可能性が示されたが、この地点においてもHg(0)濃度の上昇は他の成分と比較して小さかった。 降水中の水銀は、容器での保存時間の経過に伴い器壁吸着や揮発により濃度が減少していくため、沈着量の評価が困難であった。そこでまず始めに降水の採取・保存・測定手法の検討を行った。その結果、予め塩化臭素水で洗浄したフッ素コーティング容器を降水採取容器として使用し、降水採取容器に0.1 w/v%L-システイン溶液を降水1Lに対して10mL添加することによって、水銀損失を抑えた試料の採取・保存が可能となった。この方法を用いて2010年12月22日~2012年4月2日に富山県の平野部において測定した降水中水銀濃度の平均値は8.5ng/Lであり、地元の影響により水銀濃度が上昇していると推測された。しかし山岳地立山の積雪中水銀濃度を測定した結果、黄砂の影響を受けたと思われる層で水銀濃度が高くなった。この層では水銀、Ca2+、SO42-の濃度が高かった。平野部において黄砂粒子中の水銀、Ca2+、SO42-の粒子径分布を測定した結果、水銀の粒子分布はCa2+、SO42-と一致した。従って、水銀はCa2+、SO42-と同期して輸送されている可能性が示唆された。 以上の結果から、水銀はO3 やCa2+、SO42-と共に大陸から長距離輸送されている可能性が示唆されたが、その濃度は他の大気汚染物質に比べ低いと考えられる。 Ⅱ.インドネシアのASGMから大気中へ放出される水銀の現状把握 小規模な金精錬現場から放出されている水銀の現状を把握するため、金精錬が活発に行われているインドネシアの5つの精錬現場において大気中Hg(0)濃度を独自に開発したパッシブサンプラーとアクティブサンプラーを使用して多点同時測定を行った。その結果、WHOのガイドライン(1,000ng/m3)を超える高いHg(0)濃度をいくつかの地点で確認した。精錬時の水銀使用量は精錬方法により異なり、これが周辺環境の大気中Hg(0)濃度に影響を与えていると推測された。そこで大気中Hg(0)濃度が高かったインドネシア中央スラウェシ州Palu市において、流体解析ソフトウエアPhoenicsを使用し水銀の拡散シミュレーションを行うことによって、大気への水銀放出量の推定を行った。その結果、シミュレーションでは、現地の大気中のHg(0)濃度に関して実測値とほぼ同様な空間分布を再現することができ、時間変化も再現することができた。このことから、Palu市では年間約53トンもの水銀が大気中へ放出されていると推定された。

環論第9号

identifier:http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/522

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000571130
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000573428
  • DOI(JaLC)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 024471388
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
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