ラット直腸表層細胞に発現するアミロライド感受性上皮性ナトリウムチャネルおよび過分極活性化型内向き整流性塩化物イオンチャネルの機能特性

著者

    • 稲垣, 明浩

書誌事項

タイトル

ラット直腸表層細胞に発現するアミロライド感受性上皮性ナトリウムチャネルおよび過分極活性化型内向き整流性塩化物イオンチャネルの機能特性

著者名

稲垣, 明浩

学位授与大学

北海道大学

取得学位

博士(獣医学)

学位授与番号

乙第6896号

学位授与年月日

2013-12-25

注記・抄録

腎臓集合管,大腸,肺,気道上皮,汗腺および唾液腺などの上皮組織で見られる起電性Na+輸送は電解質組成の恒常性を保つためだけでなく、引き続いて起こる経上皮水吸収を介して生体における水分量を調節するために重要な役割を果たしている(Garty & Palmer, 1997)。上皮細胞の管腔側膜に存在する、細胞外から細胞内へのこの流入経路は上皮性ナトリウムチャネル(Epithelial Na Channel)、略してENaC(イーナック)と呼ばれており、ENaC を介した起電性Na+輸送は利尿薬であるアミロライドによって抑制されることから、この輸送はアミロライド感受性起電性Na+輸送とも呼ばれる(Garty & Palmer, 1997)。この輸送は電解質コルチコイドであるアルドステロンによって活性化するので、失血時反応などでアルドステロンの反応が特に重要視される腎臓においてその研究が進んでいる。一方で、大腸もアルドステロンの標的臓器であり、また大腸への一日の水分流入量は約1.5 ℓ であるのに対し糞便として排泄される水分は100 mℓ であり(Phillips, 1972; Debongnie & Phillips, 1978; Ma & Verkman, 1999;値はヒトにおけるもの)、大腸における起電性Na+輸送は、水分吸収及びNa+をはじめとした電解質組成の調節、さらには動物の体の恒常性を保つために重要な役割を果たしていると考えられる(Garty & Palmer, 1997)。この上皮性Na+チャネルは、アミロライドのKi 値やNa+とK+の透過性比率によって3種類に分類されている(Garty & Palmer, 1997)。このうち、多くの上皮組織で主要な役割を果たしているものが、α-, β-, およびγ-ENaC と名付けられた3 つのサブユニットからなる高選択性上皮性Na+チャネルであろうと想定されている(Garty & Palmer, 1997)。しかし腎臓皮質集合管以外では、native の組織およびそこから得られた細胞に電気生理学的手法を用いて、その組織で見られる起電性Na+輸送を担っているチャネルがα-, β-, γ-ENaC であるかどうかを電気生理学的手法で明らかにした報告は少ない。一方、電気的中性則を保つためにも、上皮膜におけるNa+輸送には塩化物イオン(Cl–)の輸送も同時に関わってくることが多い。同時に、ENaC が細胞内Cl–濃度変化にによって受ける影響も検討されている(抑制の総説としてKunzelmann & Mall, 2002, Kunzelmann, 2003; 活性化についてはHorisberger, 2003)。そして大腸表層細胞以外のアミロライド感受性Na+電流が得られた組織・細胞において、過分極で活性化するCl–電流が同時に観察されることが報告されている(Dinudom & Cook, 1993; Larsen et al., 2001; Kim et al., 2009; 2010)。このことは、アミロライド感受性起電性Na+輸送が行われている組織にはこのCl–電流も存在し、Na+輸送に何らかの影響を与えている可能性がある。そこで本博士論文では、消化管における水吸収に重要な役割を果たしている上皮性Na+チャネルについて、特に大腸における起電性Na+輸送に着目して研究を行った。α-, β-, およびγ-ENaCのクローニング母地がラット大腸であるにもかかわらず、これまで大腸における起電性Na+輸送について単一細胞レベルで詳細な電気生理学的性質をパッチクランプ法を用いて明らかにした報告はなかった。また、上皮性Na+チャネルが機能しているラット大腸表層細胞にCl–チャネルが存在しているか、存在しているならそのチャネル特性は如何なるものか、それは起電性Na+輸送にどのように影響しているのか、などについて検討した報告もない。そのことを踏まえて、第一章では「直腸表層細胞におけるアミロライド感受性上皮性Na+チャネルの、組織及び単一細胞レベルでの電気生理学的性質」について、第二章では「直腸表層細胞における過分極活性化Cl–電流の有無およびアミロライド感受性Na+電流との関連性」について検討を行った。なお、これらの成果の一部は、以下の二編の原著論文として公表した。1) Inagaki, A., Yamaguchi, S., Ishikawa, T. (2004). Amiloride-sensitive epithelial Na+ channel currents in surface cells of rat rectal colon. Am J Physiol Cell Physiol 286(2): C380-90. 2) Inagaki, A., Yamaguchi, S., Takahashi-Iwanaga, H., Iwanaga, T., Ishikawa, T. (2010). Functional characterization of a ClC-2-like Cl– conductance in surface epithelial cells of rat rectal colon. J Membr Biol 235(1): 27-41. ただし、学位論文は論者自らが得たデータのみで構成するべきとの観点から、共著者が得たデータ(Inagaki et al., 2004 の図2,Inagaki et al., 2010 の図4および図5)は図として示すことはせず、本文中に引用するだけに留めた。また、Inagaki et al.(2010)の図2C(a)および(b)は共著者のデータも含まれているので、該当する図を、論者の得たデータのみで再構成した。

(主査) 教授 葉原 芳昭, 教授 稲葉 睦, 准教授 乙黒 兼一, 講師 坂本 健太郎

獣医学研究科

腎臓集合管,大腸,肺,気道上皮,汗腺および唾液腺などの上皮組織で見られる起電性Na+輸送は電解質組成の恒常性を保つためだけでなく、引き続いて起こる経上皮水吸収を介して生体における水分量を調節するために重要な役割を果たしている(Garty & Palmer, 1997)。上皮細胞の管腔側膜に存在する、細胞外から細胞内へのこの流入経路は上皮性ナトリウムチャネル(Epithelial Na Channel)、略してENaC(イーナック)と呼ばれており、ENaC を介した起電性Na+輸送は利尿薬であるアミロライドによって抑制されることから、この輸送はアミロライド感受性起電性Na+輸送とも呼ばれる(Garty & Palmer, 1997)。この輸送は電解質コルチコイドであるアルドステロンによって活性化するので、失血時反応などでアルドステロンの反応が特に重要視される腎臓においてその研究が進んでいる。一方で、大腸もアルドステロンの標的臓器であり、また大腸への一日の水分流入量は約1.5 ℓ であるのに対し糞便として排泄される水分は100 mℓ であり(Phillips, 1972; Debongnie & Phillips, 1978; Ma & Verkman, 1999;値はヒトにおけるもの)、大腸における起電性Na+輸送は、水分吸収及びNa+をはじめとした電解質組成の調節、さらには動物の体の恒常性を保つために重要な役割を果たしていると考えられる(Garty & Palmer, 1997)。この上皮性Na+チャネルは、アミロライドのKi 値やNa+とK+の透過性比率によって3種類に分類されている(Garty & Palmer, 1997)。このうち、多くの上皮組織で主要な役割を果たしているものが、α-, β-, およびγ-ENaC と名付けられた3 つのサブユニットからなる高選択性上皮性Na+チャネルであろうと想定されている(Garty & Palmer, 1997)。しかし腎臓皮質集合管以外では、native の組織およびそこから得られた細胞に電気生理学的手法を用いて、その組織で見られる起電性Na+輸送を担っているチャネルがα-, β-, γ-ENaC であるかどうかを電気生理学的手法で明らかにした報告は少ない。一方、電気的中性則を保つためにも、上皮膜におけるNa+輸送には塩化物イオン(Cl–)の輸送も同時に関わってくることが多い。同時に、ENaC が細胞内Cl–濃度変化にによって受ける影響も検討されている(抑制の総説としてKunzelmann & Mall, 2002, Kunzelmann, 2003; 活性化についてはHorisberger, 2003)。そして大腸表層細胞以外のアミロライド感受性Na+電流が得られた組織・細胞において、過分極で活性化するCl–電流が同時に観察されることが報告されている(Dinudom & Cook, 1993; Larsen et al., 2001; Kim et al., 2009; 2010)。このことは、アミロライド感受性起電性Na+輸送が行われている組織にはこのCl–電流も存在し、Na+輸送に何らかの影響を与えている可能性がある。そこで本博士論文では、消化管における水吸収に重要な役割を果たしている上皮性Na+チャネルについて、特に大腸における起電性Na+輸送に着目して研究を行った。α-, β-, およびγ-ENaCのクローニング母地がラット大腸であるにもかかわらず、これまで大腸における起電性Na+輸送について単一細胞レベルで詳細な電気生理学的性質をパッチクランプ法を用いて明らかにした報告はなかった。また、上皮性Na+チャネルが機能しているラット大腸表層細胞にCl–チャネルが存在しているか、存在しているならそのチャネル特性は如何なるものか、それは起電性Na+輸送にどのように影響しているのか、などについて検討した報告もない。そのことを踏まえて、第一章では「直腸表層細胞におけるアミロライド感受性上皮性Na+チャネルの、組織及び単一細胞レベルでの電気生理学的性質」について、第二章では「直腸表層細胞における過分極活性化Cl–電流の有無およびアミロライド感受性Na+電流との関連性」について検討を行った。なお、これらの成果の一部は、以下の二編の原著論文として公表した。1) Inagaki, A., Yamaguchi, S., Ishikawa, T. (2004). Amiloride-sensitive epithelial Na+ channel currents in surface cells of rat rectal colon. Am J Physiol Cell Physiol 286(2): C380-90. 2) Inagaki, A., Yamaguchi, S., Takahashi-Iwanaga, H., Iwanaga, T., Ishikawa, T. (2010). Functional characterization of a ClC-2-like Cl– conductance in surface epithelial cells of rat rectal colon. J Membr Biol 235(1): 27-41. ただし、学位論文は論者自らが得たデータのみで構成するべきとの観点から、共著者が得たデータ(Inagaki et al., 2004 の図2,Inagaki et al., 2010 の図4および図5)は図として示すことはせず、本文中に引用するだけに留めた。また、Inagaki et al.(2010)の図2C(a)および(b)は共著者のデータも含まれているので、該当する図を、論者の得たデータのみで再構成した。

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000731216
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000001574384
  • DOI(JaLC)
  • DOI
  • 本文言語コード
    • eng
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDLデジタルコレクション
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