注入効率制御によるダイオードおよびIGBTの高性能化に関する研究

著者

    • 末代, 知子
    • マツダイ, トモコ
    • Matsudai, Tomoko

書誌事項

タイトル

注入効率制御によるダイオードおよびIGBTの高性能化に関する研究

著者名

末代, 知子

著者名

マツダイ, トモコ

著者名

Matsudai, Tomoko

学位授与大学

首都大学東京

取得学位

博士(工学)

学位授与番号

乙第106号

学位授与年月日

2015-03-05

注記・抄録

収集根拠 : 博士論文(自動収集)

資料形態 : テキストデータ

コレクション : 国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文

現代社会の高水準の生活維持のために電力利用は増加を続けている一方、大きな環境問題である地球規模の温暖化対策には、化石燃料使用の低減のための電力使用低減が求められる。この相矛盾する状況を満たすには電力使用の限りなく高い効率化が必要である。このためにパワーエレクトロニクス技術の活用があり、電力変換、制御を効率よく行うためにパワー半導体の低損失化が求められる。パワーエレクトロニクスの観点からの理想的な半導体素子は損失ゼロであり、これを目指し多くの研究開発が行われてきた。導通損失つまりオン電圧低減にはバイポーラ動作の素子が有効である。しかしバイポーラ動作ゆえ導通時の蓄積キャリアは多く、スイッチングオフの低速化とそれに伴う損失増加を招いた。対策としてライフタイム制御による高速化、低スイッチングオフ損失化の研究が盛んに行われてきたが、ライフタイム値低減はオン電圧増加を招き、リーク電流増加の要因ともなった。パワー半導体は低損失化が大目標であるが、高温動作化のためのリーク電流抑制、スイッチング時の振動抑制、高破壊耐量を満たしてその役目を果たす。特に高温動作化は顧客要求も高く、冷却部品の小型化も図れることから重要である。一方、これまで低スイッチングオフ損失のために行われてきたライフタイム制御は高温リーク電流を増加させ、高温動作化との両立は困難であった。よって本研究では低損失化と高温動作化を両立させるため、高ライフタイムでの低損失設計を目指し、設計コンセプトと具体的な素子構造の提案をした。対象素子は、汎用性、高耐圧駆動、大電流化に対応可能であるとの理由からスイッチング素子のIGBTと還流素子のpinダイオードとした。半導体材料は、本研究において素子構造および設計コンセプトを根本から見直すため、最も基本の半導体材料であり安定した材料であるシリコン(Si)を選択した。第1章で、研究の背景と過去の研究開発の流れを整理した。第2章にて注入効率制御の観点からバイポーラ素子の設計について論じ、高ライフタイムにて低損失化を実現する素子の設計コンセプトを提案した。pinダイオード、IGBTいずれにも、「導通状態での線形状キャリア密度分布」と「注入効率制御による低注入化」という共通な設計コンセプトを導入した。キャリア密度積分値を小さくしリバースリカバリ損失を低減させる。線形状ならばキャリア密度が局所的に小さい領域をもつことはなくオン電圧増加を抑制できる。そしてこれらは注入効率制御および高ライフタイムで実現可能となるのである。第3章では、この設計コンセプト実現のためのダイオードの構造と特性を述べた。ショットキー接合を活用し注入効率制御を行う「SC-diode (Schottky Controlled Injection-diode)」を提案し、その特徴は以下3点である。1.線形状キャリア密度分布 目的:高ライフタイムでの低オン電圧、低リバースリカバリ損失の両立 手段:i層のライフタイムを高い値で一様に分布 2.注入効率制御(アノード/カソード) 目的:低Irrと低テール電流による低リバースリカバリ損失 手段:ショットキー接合orトランスパレント構造 3.線形状キャリア密度分布にカソードに向かい正の傾きをもつ 目的:低電流振動の抑制 手段:アノード注入効率<カソード注入効率 ショットキー接合部へはキャリアの大多数が排出される一方、キャリアの注入はほとんど生じないことを利用して、ショットキー接合部とオーミック接合部の面積比率で注入効率を制御する。静耐圧、破壊耐量維持のため、ショットキー接合をもつ領域はショットキー接合を保てる範囲にて不純物濃度、分布を決定する。従来のpinダイオードがライフタイム値を下げることでオン電圧とリバースリカバリ損失のトレード-オフ関係を得ていたのに対し、SC-diodeでは高ライフタイム、ショットキー接合部の面積比率を変えることでトレード-オフ関係および高速動作を得ることに成功した。リーク電流は、ライフタイム制御有りのpinダイオードに比べ150℃にて1/10に抑えられ、175℃でも十分に実用に耐えうるリーク電流値を確認した。高速動作ダイオードの課題にリバースリカバリ時の電流、電圧振動がある。リバースリカバリ動作時に空乏層の延びと共に残留キャリア領域が消滅することで、急激な電界の変化と電流、電圧振動が発生する。SC-diodeでは、線形状キャリア密度分布に傾きをもたせ振動抑制できることを確認した。リバースリカバリ時破壊についても対策を講じた。オーミック接合部をもつpアノード層を規則的に深く形成し、この底部で生じたアバランシェによるキャリアをpアノード層直上のオーミック接合部から最短距離で確実に引き抜くのである。SC-diodeでは深いpアノード層は他の特性には影響せず、破壊耐量のみ向上可能な有効な手段である。破壊耐量のみ向上可能な有効な手段である。第4章ではPT-IGBTとNPT-IGBTの課題を整理し「薄型PT-IGBT」を提案した。その特徴は以下2点である。1.線形状キャリア密度分布 目的:高ライフタイムでの低オン電圧、低ターンオフ損失の両立 手段:n-ドリフト層を一様な高ライフタイム値とする 2.コレクタ注入効率制御 目的:低テール電流による低ターンオフ損失 手段:トランスパレントpコレクタ層、nバッファ層の組み合わせとする IGBTがpinダイオードを内蔵した素子であることに着目し、SC-diodeの設計コンセプトをIGBTにも適用した。n-ドリフト層はpinダイオードのi層に相当し高ライフタイム化した。低注入コレクタとして動作するトランスパレントpコレクタとnバッファ層の組み合わせにてホール注入効率制御を行った。nバッファ層をもつことでパンチスルー(PT)型IGBT構造となりn-ドリフト層を薄層化しオン電圧低減を図る。従来のPT-IGBTがライフタイム値を下げることでオン電圧とスイッチングオフ損失のトレード-オフ関係を得ていたのに対し、薄型PT-IGBTはpコレクタ不純物総量の変化にてトレード-オフ関係を得た。そしてトレード-オフ関係の飛躍的な改善にも成功した。薄型PT-IGBTの高速動作も解析した。コレクタ側キャリア密度を下げることで、ゲートオフ時のチャネル電流低減で導通時蓄積キャリアが排出され、バイポーラ素子でありながらMOSFETのような動作をすることを解析した。高速ターンオフ時の電流、電圧振動抑制のためnバッファ層とpコレクタ層との間にp-バッファ層を挟みもつ構造を提案した。p-バッファ層にはターンオフ時、確実に蓄積キャリアが残留し振動を抑制するのである。破壊試験のうち、コレクタ低注入が大きく影響すると予想されるサステイン試験についての解析、実験を行った。回路上に大きなインダクタンスを設けたターンオフ時、コレクタ低注入設計ではチャネル電流オフで蓄積キャリアの大部分が消滅し代わりにアバランシェ電流がほとんどを占める現象が生じるのである。本研究で提案した薄型PT-IGBTは、PT型、NPT型と世代を刻んできたIGBTに続き、現在はFS-IGBT(Field Stop IGBT)、LPT-IGBT(Light Punch Through IGBT)等の名称で広く普及し、各国各社の多くの半導体製品に採用されている。nバッファ層とpコレクタ層の設計にて素子特性が支配されるため、nバッファ層、pコレクタ層に関するより詳細な研究も進められている。不純物総量だけでなく、不純物濃度分布、イオン種の差異による特性や温度依存性等、数多く論じられている。薄いウェハに対するプロセス技術も進展している。最後にSi半導体の意義を述べる。SiC、GaN等の新材料による開発が盛んに行われている。その優れた物性、特性はSiを大きく引き離している。しかし、製品展開の観点ではSiはまだ優位と考える。Siはコスト、材料の安定供給、ウェハ大口径化、プロセス構築等、量産化に対して優れている。一方、新材料を代表するSiCの製品展開はハイエンド品向けが続き、基礎研究は今後さらに活発になる。新材料とSiは互いに得意とするところが異なり、棲み分けが進んでいくと考える。

目次

  1. 2016-11-07 再収集
  2. 2016-11-07 再収集
  3. 2016-11-07 再収集
  4. 2023-07-18 再収集
  5. 2023-07-18 再収集
  6. 2023-07-18 再収集
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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500001847182
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000002393353
    • 8000002393354
    • 8000002393355
  • 本文言語コード
    • jpn
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDLデジタルコレクション
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