J-REIT を通じた金融市場と不動産市場の融合 : コーポレートとしてのREITによる不動産投資行動プロセスを踏まえた検証

著者

    • 澤田, 考士

書誌事項

タイトル

J-REIT を通じた金融市場と不動産市場の融合 : コーポレートとしてのREITによる不動産投資行動プロセスを踏まえた検証

著者名

澤田, 考士

学位授与大学

埼玉大学

取得学位

博士(経済学)

学位授与番号

甲第31号

学位授与年月日

2021-03-25

注記・抄録

収集根拠 : 博士論文(自動収集)

資料形態 : テキストデータ

コレクション : 国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文

type:text

本論文は、J-REIT を通じた金融市場と不動産市場の融合について、コーポレートとしてのJ-REIT による不動産投資行動を踏まえた検証を行うとともに、両市場の融合の結果生じた日本の不動産市場の構造変化等に関する検討を行ったものである。 J-REIT は、既に世界で少なくとも40 以上の国・地域に存在する不動産投資信託(REIT)の日本版であり、海外の上場REIT と同様、「資産要件」(資産の大部分が不動産(あるいは不動産関連資産)である)、「収入要件」(収入の大部分を不動産から獲得している)、「配当要件」(決算期毎に利益の大部分を配当する)等の一定の要件を満たすことで、法人税が事実上かからない仕組みが採用されている。上場REIT に関するその他の要件は、国や地域によって異なるが、上記のような要件を課すことで、上場REIT をあくまでも多数の投資家による集団投資スキームにおけるビークル(器)に過ぎないと見做せるような制度設計を行い、その代わり、法人税が事実上課税されないような措置が取られている。 日本においては、2000 年11 月の投資信託及び投資法人に関する法律の改正・施行によって投資信託の投資対象に不動産を含めることが可能となったことにより、J-REIT の組成が可能となった。そして、2001 年3 月に東京証券取引所がJ-REIT 市場を開設し、同年9 月にはJ-REIT2 銘柄が初の同時上場を果たした。J-REIT 市場は、その後、リーマン・ショック等の様々な局面を経て、大きく拡大した。 J-REIT は、その仕組み上、多数の投資家による不動産への間接投資を仲介するビークル(器)として厳格に位置づけられており、それゆえ、上場証券市場における証券投資家に成り代わって不動産投資を行う。J-REIT は、不動産投資によって、証券投資家が要求するリターンを確保することが要請される存在であることから、J-REIT 市場が拡大するにつれ、上場証券市場における投資家の不動産への投資判断が、コーポレートとしてのJ-REIT による不動産投資行動を通じて、実物不動産市場に影響を与えやすくなると考えられる。また、このようなメカニズムが働くようになったため、日本の不動産市場に構造変化が生じたと考えられる。 第1 章では、本論文で検討する不動産市場の構造変化が生じた経緯を把握するために、まず、日本の地価の長期的な推移と1980 年代のバブル期における地価動向について述べた。その上で、1990 年代初頭に生じた地価トレンドの変化及びその影響や1990 年代半ば以降に不動産証券化制度がされるまでの経緯を振り返った。そして、1990 年代半ば以降に順次行われた不動産証券化制度導入の背景や意義を述べるとともに、日本における不動産証券化スキームの基本構造や分類等を概説し、日本の不動産証券化制度におけるJ-REIT の位置づけを明らかにした。また、金融市場及び不動産市場の双方でJ-REIT の存在感が高まっていることを確認するため、J-REIT 市場のこれまでの推移を振り返った。 第2 章では、不動産システムとJ-REIT の特徴及び仕組みについてその概要を示した。不動産システムとは、資産市場、賃貸市場、建設市場、及びストック調整市場、の4 つの部門から構成される不動産関連市場全体を示すシステムである。米国等の学術的議論においては、この4 つの部門が相互に関連しつつ各市場が調整され、結果としてシステム全体を安定化させる負のフィードバック回路と称される仕組みが内在していると指摘されている(Geltner and Miller[2001])。本論文の研究対象であるJ-REIT は、不動産システムにおいて、資産市場における主要な不動産の売買主体であるのに加え、賃貸市場における不動産の貸主でもある。また、J-REIT が直接的に不動産開発事業の実施主体になることはないが、不動産開発業は、間接的にJ-REIT との関連を持つ。従って、上場証券市場で調達した資金によって不動産投資を行うJ-REIT の不動産投資行動は、不動産システム全体に影響を及ぼす可能性がある。そこで、J-REIT の不動産投資行動が及ぼす不動産システムへの全体的な影響を把握しやすくするため、不動産システムについて、DiPasquale and Wheaton(1992)が示した4 象限モデルに基づいて、その概要を示した。また、海外REIT や日本国内の上場不動産会社と比較しつつJ-REIT の特徴及び仕組みの概要を示すことで、J-REIT を研究対象とする本論文の位置づけを示した。 第3 章では、上場証券市場で示されるJ-REIT 価格(株式会社の株価に相当)と実物不動産市場で示される不動産取引価格や不動産鑑定評価額が、いずれも投資対象不動産の評価を反映していることに着目し、J-REIT 価格の変動に基づくリターンとJ-REIT が保有する不動産の鑑定評価額の変動に基づくリターンとの関係を、Barkham and Geltner(1995)と同様の方法で分析した。米国では、1990 年代前半以降にREIT 市場が本格的に拡大し、REITが次第に1 つのセクターとして認識されるようになり、その後、1990 年代半ばからREIT等の上場不動産証券のリターンと実物不動産のリターンの関係に関する研究が行われ始めた。そして、同様の研究は、米国の他、英国、香港、オーストラリア、オランダ等について行われてきた。だが、日本においては同様の研究が本格的に行われてこなかった。そこで、第3 章では、J-REIT データを用いることで、Barkham and Geltner(1995)が米国及び英国について示した、ある時点の上場REIT のリターンが将来の実物不動産のリターンを有意に示すという、いわゆる、上場REIT 市場による実物不動産の価格発見機能と称される現象が、日本においても生じている可能性を示唆する結果を得た。 第4 章では、この議論を更に進め、上場J-REIT 市場による実物不動産の価格発見機能が生じる原因について、先行研究における指摘とは異なる別の原因についての検証を行った。先行研究においては、上場REIT 市場による実物不動産の価格発見機能が生じる原因として、両市場における情報効率性の差が挙げられてきた。市場の情報効率性とは、市場のファンダメンタルズについて新たな情報が明らかになった際、その情報が価格に織り込まれるまでの時間の短さを示し、この時間が短いほど、市場の情報効率性が高いとされる。海外に関する先行研究は、上場REIT 市場のほうが実物不動産市場よりも情報効率性が高いことによって、前述の価格発見機能が生じると結論付けた。この考え方には、一定の妥当性が認められると考えられ、J-REIT 市場についても同様に当てはまるように思われる。しかし、JREITは、証券市場で調達した資金によって、上場証券市場における投資家の期待リターンを確保する不動産投資を行うことが要請される存在あることを踏まえれば、このようなコーポレートとしてのJ-REIT の不動産投資プロセスに起因するメカニズムも、前述の価格発見機能が生じる理由ではないかと想定した。なぜなら、REIT 価格が変化した場合には、JREITの不動産投資におけるハードル・レートの変化を通じてJ-REIT の不動産行動が変化し、結果として実物不動産価格に影響を与えると考えられるからである。そこで、第4 章では、このような問題意識の下、J-REIT データによって通常のパネルデータモデル及びダイナミック・パネルデータモデルを推定した。この推定により、ある年におけるJ-REIT の不動産取得動向が、その前年におけるJ-REIT の不動産取得動向及び前年のJ-REIT 価格上昇率で統計的に有意に説明する旨の結果を得た。この結果は、コーポレートとしてのJ-REITの不動産投資プロセスに起因するメカニズムが、前述の価格発見機能が生じる原因の一つである可能性を示唆するものと考える。 第5 章では、第4 章までの議論・検証を踏まえ、今後の課題について述べた。リーマン・ショック時におけるJ-REIT 売却、日銀によるJ-REIT 買入、あるいは銀行等の金融機関によるロスカットルールによるJ-REIT 売却等に見られるように、J-REIT への投資は、J-REITが投資する不動産の評価以外の要因も踏まえ行われることもある。仮に、そのような投資行動によってJ-REIT 価格・リターンが、不動産に対する評価や他の金融資産との相対的な関係によって説明することが難しい水準になった場合、コーポレートとしてのJ-REIT の投資行動プロセスにより、実物不動産の価格・リターンに影響を与える可能性がある。このため、J-REIT の価格・リターンが、その決定要因(将来の期待収益、収益の変動リスク、あるいは流動性等)に照らして、他の金融商品の価格やリターンと同様に説明することが可能な水準にあるか、あるいは、実物不動産市場の動向から想定される水準から大きく乖離していないか、検証することが挙げられる。 また、不動産システム全体に対し、第2 章で述べる不動産システムにおける負のフィードバック回路によっても短期的な修復が不可能であるほどの影響をJ-REIT が与えていないかについての検証も、重要な課題であるように思われる。特に、不動産の新規開発の過度な増加により実物資産である建物が過剰供給されると、その調整のためには建物の建て壊し等に多くのコストや時間を要することになり、その悪影響は大きい。J-REIT 市場における価格形成やJ-REIT による不動産投資行動による影響が、不動産システム全体に波及することで、実物資産の過剰供給による悪影響が生じていないか、定期的な検証が求められる。

要旨.................................................................................................................ⅰ目次.................................................................................................................ⅴ図表リスト...........................................................................................................ⅸ序章.................................................................................................................1 第1 節 はじめに...................................................................................................1 第2 節 本論文の目的................................................................................................3 第3 節 本論文の構成................................................................................................6 第1 章 日本における地価トレンドの転換と不動産市場の構造変化..........................................................9 第1 節 はじめに....................................................................................................9 第2 節 1990 年代初頭までの地価の継続的上昇と1980 年代のバブル期における地価動向...................................13  2.1 日本における長期的地価推移..................................................................................13  2.2 1980 年代のバブル期前後における地価の推移....................................................................15 第3節 1990 年代初頭に生じた地価トレンドの変化とその影響..........................................................20  3.1 地価の下落トレンドへの転換と当時のソフトランディング論......................................................20  3.2 地価下落の継続と不動産証券化制度の創設......................................................................23 第4 節 上場J-REIT 市場の規模の推移と買主セクター別不動産取得額の推移..............................................26  4.1 J-REIT市場の規模の推移とその背景............................................................................26   4.1.1 J-REIT 時価総額の推移...................................................................................26   4.1.2 上場J-REIT 銘柄数の推移.................................................................................29  4.2 不動産の買主セクター別不動産取得額から読み取れるJ-REIT による不動産取得状況.................................31 第5 節 日銀によるJ-REIT 関連政策....................................................................................31 第6 節 結論.........................................................................................................33第2 章 不動産システムの概要とJ-REIT の特徴..........................................................................35 第1 節 はじめに.................................................................................................. 35 第2 節 不動産システム.............................................................................................37  2.1 不動産システムの概要........................................................................................37  2.2 DiPasquale & Wheaton の4 象限モデル.........................................................................39  2.3 不動産に対する投資需要が増加した場合の影響..................................................................41 第3 節 J-REIT の特徴・仕組みと上場不動産会社との違い..............................................................44  3.1 世界におけるREIT の概要とJ-REIT の特徴......................................................................44  3.2 J-REIT の仕組み.............................................................................................48  3.3 上場J-REIT と上場不動産会社の主な違い.......................................................................50 第4節 不動産システムにおける負のフィードバック回路と本論文における研究の位置づけ.................................52  4.1 不動産システムにおける負のフィードバック回路................................................................52  4.2 不動産システムにおけるJ-REIT の役割と負のフィードバック回路への影響.........................................53 第5 節 結論.......................................................................................................54第3章 J-REIT 市場による実物不動産市場の価格発見機能に関する検証   -Barkham-Geltner モデルによる分析-...........................................................................55 第1 節 はじめに...................................................................................................55 第2節 先行研究...................................................................................................57  2.1 Barkham and Geltner(1995)の手法・モデルを用いた理由.........................................................57  2.2 先行研究のレビュー..........................................................................................58 第3節 データ・モデル.............................................................................................60  3.1 データ......................................................................................................60   3.1.1 利用データの概要........................................................................................60   3.1.2 東証REIT 指数のキャピタルリターンの調整.................................................................61   3.1.3 AJPI-JREIT のキャピタルリターンの調整...................................................................62   3.1.4 分析に用いるデータの概要................................................................................64   3.1.5 データに関する留意点....................................................................................66  3.2 モデル......................................................................................................66   3.2.1 Barkham and Geltner(1995)モデル.........................................................................66   3.2.2 モデルにおける最大ラグの検討............................................................................67 第4節 実証結果...................................................................................................68  4.1 調整済REIT リターンを被説明変数とするモデルによる分析.......................................................68  4.2 調整済実物不動産リターンを被説明変数とするモデルによる分析..................................................69  4.3 実証分析結果まとめ..........................................................................................71 第5 節 結論.......................................................................................................71第4章 証券市場における価格形成がJ-REIT の不動産投資行動に及ぼす影響-ダイナミック・パネル分析による検証-...............................................................................72 第1 節 はじめに...................................................................................................72 第2節 インプライド・キャップレートとREIT の不動産投資行動プロセス................................................74 第3 節 データ・モデル.............................................................................................76  3.1 データ......................................................................................................76   3.1.1 分析対象とするJ-REIT 銘柄...............................................................................76   3.1.2 分析に用いるデータ項目 ................................................................................ 77   3.1.3 パネルデータの基本統計量............................................................................... 78   3.1.4 データに関する留意点....................................................................................78  3.2 モデル......................................................................................................82   3.2.1 通常のパネルデータモデル(被説明変数のラグ項を説明変数に含めない)......................................83   3.2.2 ダイナミック・パネルデータモデル(被説明変数のラグ項を説明変数に含める)............................... 84 第4 節 実証結果.................................................................................................. 85  4.1 通常のパネルデータモデルの推定結果......................................................................... 85  4.2 ダイナミック・パネルデータモデルの推定結果..................................................................87 第5 節 結論...................................................................................................... 89第5 章 まとめと今後の課題...........................................................................................92 第1 節 まとめ.....................................................................................................92 第2 節 本論文における実証分析を可能にしたJ-REIT による豊富な情報開示..............................................93 第3 節 本論文のインプリケーション................................................................................ 95 第4 節 今後の課題.................................................................................................97参考文献............................................................................................................ 101

主指導教員 : 長田 健 准教授

博士の専攻分野の名称 : 博士(経済学)学位授与年月日 : 令和3年3月25日

identifier:学位記番号 : 博人社甲第31号

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500001673068
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000002214845
  • DOI(JaLC)
  • DOI
  • 本文言語コード
    • jpn
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDLデジタルコレクション
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