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- 小松崎 久乃
- 順天堂大学医学部皮膚科学教室
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抄録
Candida albicans (C. albicans)はペプトンとグルコースを含むSabouraud液体培地で培養するとタンパク質を分解するプロテアーゼを産生しないが,ペプトンの代わりにケラチン,牛血清アルブミンなどのタンパク質を添加した培養系ではそれを産生することが知られている.C. albicansの産生するこのプロテアーゼの生物学的性状については多くの報告があるが,本菌がリパーゼをも,状況によっては産生するのではないかと想定して,各種培養系におけるその産生誘導を試みた.その結果,C. albicansはTween80を含む液体培地で培養すると,リパーゼ(脂質分解酵素)の活性が検出された.そこで,このリパーゼ産生の誘導条件と本酵素に関する若干の生化学的性状について検索し,その生物学的意義について考察した,即ち,C. albicansのリパーゼ活性は,比較検討した各種液体培地中では,①yeast nitrogen base(YNB)に長鎖脂肪酸エステルであるTween80を添加した液体培地において検出・産生され,②培養上清中に放出される菌体外型のリパーゼを主とするものと考えられ,③菌数の増加とこの酵素活性はよく相関し,また,④本酵素活性の産生は添加培養したTween80の濃度依存性であった.一方,⑤炭素源を十分含むSabouraud培地やyeast carbon base (YCB)培地では,たとえTween80を添加してもリパーゼ活性は認められなかった.また,⑥YNB培地にTween20やTriton X-100を添加した培地からもリパーゼ活性が認められなかった.以上よりC. albicansにおけるリパーゼの誘導には炭素源が極端に制限された培地に,ある種の長鎖脂肪酸を含む脂質が共存するが如き,特定の条件が必要であることが示唆された.更に,⑦本酵素は膵リパーゼと同じく胆汁酸の存在下で活性が増加したが,⑧トリプシン処理による活性の増加は認められず,⑨その至適pHは5.5であった,また,本酵素の活性は,⑩各種タンパク分解酵素阻害剤や2価金属イオンの影響を受けず,エステラーゼ阻害剤も活性を阻害しなかった.正常ヒト皮膚角層表面にはトリグリセリドをはじめとする種々の脂質か存在し,弱酸性を示すこと,などより,C. albicansはその置かれた条件,状況に応じてその産生するリパーゼを利用しつつ生体の脂質を分解し,菌の増殖を果たしている可能性が考えられた.以上,C. albicansの産生するリパーゼは,従来病原性因子と考えられているプロテアーゼと同様に重要な病原性因子となっている可能性が示唆された.
収録刊行物
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- 日本皮膚科学会雑誌
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日本皮膚科学会雑誌 102 (3), 335-, 1992
公益社団法人 日本皮膚科学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680715483136
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- NII論文ID
- 130004680581
- 80006398787
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- COI
- 1:CAS:528:DyaK38XitlWmtLk%3D
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- ISSN
- 13468146
- 0021499X
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可