哺乳類未受精卵における超低温保存法に関する基礎的研究

著者
    • 藤原, 克祥
書誌事項
タイトル

哺乳類未受精卵における超低温保存法に関する基礎的研究

著者名

藤原, 克祥

学位授与大学

麻布大学

取得学位

博士(学術)

学位授与番号

甲第59号

学位授与年月日

2014-03-15

注記・抄録

序論 哺乳類生殖細胞の超低温保存は、効率的な遺伝資源の保存やヒト生殖補助医療への応用に重要な技術である。精子または未受精卵、特に成熟卵(排卵卵子)および未成熟卵(卵胞卵子)などハプロイドの細胞を保存することは、個体復元時に雌または雄の遺伝的背景が選択できることから貴重な技術となりえる。本研究は、哺乳類の精子および未受精卵における保存後に高い受精能および発生能を示す超低温保存法の開発を目的とし、第1章ではラットをモデルとして、成熟卵のガラス化保存に用いる際の保存液を開発し、さらに発生能改善に関する検討を行った。また、凍結保存した射出精子における体外受精(IVF)を介して得られた胚の受精能および個体への発生能を検討した。第2章および第3章では、第1章で開発した保存液を用いてガラス化保存したマウス未成熟卵およびブタ成熟卵における受精能と発生能について、それぞれ検討した。第1章 ラット成熟卵および射出精子における超低温保存法の開発に関する研究第1項 ラット成熟卵における新規ガラス化保存液の開発【目的】超低温保存(ガラス化保存)した成熟卵は低温および凍害保護物質(CPA)に対する感受性が高く、保存後の生存性および発生能が著しく低下する。特に感受性が高いとされるラット成熟卵を用いたガラス化保存法の確立および発生能の改善を目的とし、保存液中のカルシウム(Ca)の有無とCPAとしてDimethylsulfoxide(DMSO)およびEthylene glycol(EG)の組み合わせが受精能および発生能に及ぼす影響を検討した。【方法】成熟卵は過剰排卵処置したWistar雌ラットから採取し、ガラス化保存した。保存液中のCaの有無とDMSOおよびEGの組み合わせが保存後の生存性と人為的活性化処置後の発生能に及ぼす影響を、また表層顆粒の放出を免疫蛍光染色により調べた。さらに、新鮮精巣上体尾部精子を用いて、IVFを行った。【結果】Ca無添加EG添加液でガラス化保存した卵の活性化処置後における胚盤胞率(23.1%)は、Ca無添加DMSO添加区(3.8%)と比較して有意に高い発生率を示した(P<0.05)。Ca無添加EG添加区は表層顆粒放出が抑制された。Ca無添加EG添加区はIVF後に囲卵腔への精子侵入(55.0%)が認められたが、前核形成率は観察されなかった。Ca無添加EG添加液がラット成熟卵のガラス化保存する際に高い生存性および表層顆粒の放出を抑制するが、その受精能を改善するには至らなかった。第2項 MG132がラット成熟卵ガラス化保存に与える影響【目的】第1項により、ラット成熟卵に適した保存液が開発されたが、その受精能を改善するには至らなかった。第2項ではプロテアソーム阻害剤であるMG132を用いてラット成熟卵をガラス化保存することで、IVF後の受精能を検討した。【方法】成熟卵はMG132を0,1.0,10.0 μM添加した保存液でガラス化保存し、保存後にIVFを行った。【結果】IVF後の生存率は0 μM (83.0 ± 4.4%)が1μM(48.1 ± 4.1%)および10μM(54.7 ± 6.0%)と比較し有意に高い値を示した(P<0.05)。前核期胚率は1 μM(25.1 ± 4.2%)および10 μM(29.3 ± 2.1%)が0 μM(0.0 ± 0.0%)と比較し有意に高い値を示した。第2項により、MG132を用いることで保存後に受精能を示すラット成熟卵のガラス化保存法が開発されたが、その生存性は低く、さらなる改善が必要であった。第3項 超低温保存したラット成熟卵と精巣上体尾部精子からの個体復元【目的】第1項および第2項により、受精能を示すラット成熟卵のガラス化保存が開発されたが、MG132を用いることで保存後に生存性が大きく低下してしまう。汎用的なガラス化保存法の開発のため、受精時に重要である卵丘細胞に着目した。ラット成熟卵における卵丘細胞付着の有無が、ガラス化保存後の受精能および個体への発生能に及ぼす影響について検討した。【方法】(実験1)卵丘細胞付着の有無が受精能に及ぼす影響について検討した。ラット卵丘細胞卵子複合体(COC)は卵丘細胞が付着した状態(COC区)、卵丘細胞を裸化した状態(DO区)でそれぞれガラス化保存した後にIVFした。IVFはWistar雄ラットの精巣上体尾部から採取した新鮮精子を用いた。(実験2)卵丘細胞が付着した状態でガラス化保存した卵は凍結保存したラット精巣上体尾部精子を用いてIVFを行い、得られた胚をレシピエント雌に胚移植した。【結果】(実験1)前核形成率はCOC区が31%、DO区が0%であった(P<0.05)。(実験2)ガラス化保存した成熟卵由来胚は7.4%が産子へと発生した。以上の結果より、ラット成熟卵は卵丘細胞が付着した状態で、Ca無添加EG添加液を用いたガラス化保存法により高い生存性を示し、個体への発生能が改善された。第4項 体外受精に用いる凍結保存したラット射出精子の受精能および個体への発生能【目的】ラットなどの小型実験動物は精子を凍結保存する際に精巣上体尾部を採取するため、雄を安楽死させる必要がある。射出精子の凍結保存が可能となれば、有用な雄を安楽死させることなく遺伝資源を保存し、IVFに用いることが可能となる。凍結保存したラット射出精子の受精能を調べるために、保存精子の受精能獲得とIVF後を介して作出された卵の個体への発生能を調べた。【方法】射出精子は、Wistar雄ラットと雌ラットを交配させ、交配確認から1時間以内に雌ラットの子宮を灌流することで採取した。この射出精子および精巣上体尾部精子は卵黄液を用いて凍結保存した。凍結融解精子はmR1ECM中で5時間培養を行い、また、受精能獲得の状態はタンパク質チロシンリン酸化を指標として評価した。さらに、凍結保存精子と卵によるIVFを行い、得られた胚をレシピエント卵管へ移植した。【結果】凍結保存射出精子は融解後5時間の培養により受精能が獲得されていた。IVF後の受精率は、凍結保存した精巣上体尾部精子(15.0%)と射出精子(23.0%)との間に有意な差はなく(P>0.05)、凍結保存した精巣上体尾部精子(53.7%)および射出精子(47.7%)から得られた胚は移植後に個体へと発生した。第2章 ガラス化保存したマウス未成熟卵における個体への発生能に関する研究【目的】第1章により、ラット成熟卵のガラス化保存液を開発した。ラット未成熟卵の体外成熟培養(IVM)は確立していないため、本章は第1章で開発した保存法を応用することで、IVMが確立しているマウス未成熟卵のガラス化保存を行い、保存後に個体復元を試みた。【方法】過剰排卵処置したICR雌マウスから採取した未成熟卵はCa無添加EG添加液によりガラス化保存した。未成熟卵は加温後、14時間のIVMを行ない、IVFに供した。IVFはBDF1 雄マウスの凍結保存した精巣上体尾部精子を用いて行い、IVFにより作出された2細胞期胚はレシピエント雌マウスに胚移植した。【結果】ガラス化保存したマウス未成熟卵の生存率はIVF/IVM後に90%前後を示した。またIVF後の前核形成率は50%前後であり、前核形成した胚はほぼ全てが胚盤胞へと発生した。さらに、ガラス化保存した未成熟卵由来2細胞期胚は37.5%が産子へと発生した。Ca無添加EG添加液により保存したマウス未成熟卵は高い生存性と個体への発生能を示した。第3章 ガラス化保存したブタ成熟卵における紡錘体維持および受精能に関する研究【目的】第2章と同様に、第1章で開発した保存液を用いることで、家畜であるブタ成熟卵におけるガラス化保存への応用を目的として検討した。ブタ成熟卵は細胞質内に多く含まれる脂肪滴により高い低温感受性を示すし、ガラス化保存時に紡錘体などの細胞小器官が損傷する。そのため、保存時に紡錘体などの細胞小器官の維持が非常に重要である。本章ではカフェインに着目し、ガラス化保存前後のカフェイン処理がCa無添加EG添加保存液によりガラス化保存したブタ成熟卵における紡錘体維および受精能に及ぼす影響を調べた。【方法】体外成熟卵から卵丘細胞を除去し、カフェインを添加 (0,0.1,1および10 mM)したNCSU-37により1時間前培養した。成熟卵は、Ca無添加EG添加液によりガラス化保存した。(実験1)加温卵は1時間の前培養と同様の条件下で修復培養を行い、fluorescein diacetateを用いて生存判定を行い、その後アセトオルセイン染色により核相を観察した。(実験2)1mMカフェイン処理したガラス化保存卵は凍結保存したブタ精巣上体尾部精子を用いてIVFを行った。IVF10時間後に生存判定を行い、その後アセトオルセイン染色により2つ以上3つ以下の前核が観察できる卵を前核期胚として判定した。【結果】(実験1)加温後の生存率は95.2%(0mM区)、93.3%(0.1mM区)、88.6%(1mM区)および87.5%(10mM区)であり、有意差は認められなかった(P>0.05)。生存した加温卵における紡錘体の形態を維持した割合は、カフェイン1mM区(21.4%)は、0mM区(8.2%)、0.1mM区(10.8%)、10mM区(2.1%)と比較し高い値を示した(P<0.05)。(実験2)ブタガラス化保存成熟卵の生存率は、カフェイン0mM(50.8%)、1mM区(59.6%)であり、有意な差は認められなかった。前核期胚率はカフェイン1mM区(31.6%)は0mM区(7.7%)と比較し有意に高い値を示した(P<0.05)。ガラス化保存前後の1 mMカフェイン処理は、保存後のブタ成熟卵における紡錘体の維持または修復に有効であり、受精能を向上した。結論 本研究によりラット成熟卵およびマウス未成熟卵はCa無添加EG添加液を用い、卵丘細胞が付着した状態でガラス化保存することにより、IVF後に受精能を有し、その未受精卵由来胚は産子への発生能を示した。ラット成熟卵において超低温保存した雌雄両配偶子からIVFを介した個体復元は初の成功例であり、マウス未成熟卵においても効率的な個体復元が可能となった。また、ラット射出精子は凍結保存後に受精能を有し、卵とのIVF後に得られた受精卵は個体への発生能を示し、初めてラット凍結保存した射出精子からの個体復元に成功した。一方、カフェイン処理したブタ成熟卵はCa無添加EG添加液によりガラス化保存することで、保存後に紡錘体を維持し、受精能は改善された。以上、本研究により未受精卵および精子の超低温保存法が開発された。この研究は、実験動物や家畜などを含む哺乳類の遺伝資源保存に貢献するものと考えられる。

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目次
  1. 2015-04-01 再収集 (2コマ目)
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各種コード
  • NII論文ID(NAID)
    500000916857
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000001579293
  • 本文言語コード
    • jpn
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDLデジタルコレクション
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